Double Stuff:ヒップホップ ダブルアルバムの軌跡と栄光

Text: B SABURO / Edit: Atsuko Tanaka

ヒップホップシーンに大きな衝撃を与えたケンドリック・ラマーのアルバム「Mr. Morale & The Big Steppers」。有名アーティストをはじめ、実に多くの人々がこのアルバムについて各々の意見を語っている。さて、今回ケンドリックが成し遂げたことの一つに、ダブルアルバムという形式をとったことがある。そこで、ヒップホップにおけるダブルアルバムの軌跡を振り返ってみたいと思う。


“He’s the DJ I’m the Rapper” by DJ Jazzy Jeff & The Fresh Prince, 1988

長い間ロック界でポピュラーだったダブルアルバムがヒップホップで初めてリリースされたのは1988年、DJ Jazzy Jeff & The Fresh Princeの「He’s the DJ I’m the Rapper」だ。このアルバムが2枚組になった理由は、コンセプトとしてというよりは、グループの両方のメンバーを紹介するためだった。当時、DJはMCと同じくらい重要な役割を果たしていた(見ての通り、DJ Jazzy Jeffの名前が最初に来ている)。1枚は、より多くの曲とストーリーに基づいた構成となっており、もう1枚は主にJeffがスクラッチしたアップテンポなトラックをフィーチャーしている。このアルバムは大成功を収め、彼らはヒップホップ初となるグラミー賞を受賞した。


“All eyes on me” by Tupac, 1996 / “Life after death” by Biggie, 1997

その後ヒップホップでダブルアルバムが登場するのは、90年代半ばにリリースされたTupacの「All eyes on me」とBiggieの「Life after death」までなかった。非常に残念なことに、Tupacはアルバムを出した7ヶ月後、Biggieはアルバムが出る2週間前に亡くなったため、悲しいかなファンたちは、自分たちのヒーローが多くの音源を残してくれたことに感謝し、間奏曲を含めた全ての曲を批判することなく心を込めて聴いた。そしてこれ以降にリリースされたダブルアルバムは、これら最高の2枚を基準として出来の良し悪しを判断されることとなる。


“Wu-Tang Forever” by Wu-Tang Clan, 1997

強烈なインパクトで出現したWu-Tang clan。 1993年に「Enter the 36 Chambers」でデビューし成功した後、メンバーのうちの5人がソロとしてもアルバムをリリースし、そのうちのいくつかがゴールドとプラチナという偉業を成し遂げた。グループのセカンドアルバムにも期待がかかり、「Wu-Tang Forever」が2枚組でリリースされると発表された時、これは大当たりになると多くのファンが興奮した。GZAがその様子を「Reunited」という曲で「Reunited, double LP, world excited」と表したように。結果アルバムは大成功を収め、マルチプラチナムを記録。しかし、いくつかの曲の出来の乏しさに、1枚のアルバムとして出すので十分でなかったかなどの声が多く上がった。グループに9人ものメンバーがいるため、全員が輝けるチャンスを得るのは難しい。非常に長く迷走がちなイントロとアウトロはさておき、このアルバムは永遠に語り継がれるマスターピースとなったのは違いない。


“Art of War” by Bone Thugs-N-Harmony, 1997 / “My Homies” by Scarface, 1998

他にも、Bone-Thugs-n-Harmony、Scarface、Master Pなど、90年代にダブルアルバムを出したアーティストが多くいた。しかし大きな波はその後、2000年代初頭にやってくる。


“The Blueprint 2” by Jay-Z, 2002

2003年において、この地球上で最大のラッパーは、間違いなくブルックリン出身のJay Zだ。 2001年に「Blueprint」を出し大成功を収めた後、続いてダブルアルバム「The Blueprint 2」をリリースしたが、賛否を呼んだ。シングル化されたビヨンセフィーチャリングの「Me and My Girlfriend」など、いくつかのヒット曲を生み出すも、アルバム全体としては単調なサウンドトラックが多かったため、翌年、「The Blueprint 2」のベスト曲を集めた1枚のアルバム「The Blueprint 2.1」としてリリースし直すという結果に落ち着いた。


“Speakerboxx/The Love Below” by Outkast, 2003

次に大ヒットとなったヒップホップの2枚組アルバムは、史上最大の売り上げを記録したアルバムの一枚でもある Outkastの「Speakerboxx/The Love Below」。彼らのキャリアとしては絶頂期を迎えていたが、残念にもこれが彼らの最後のアルバムとなる。厳密には、このアルバムはOutkastのアルバムとは言いがたい。Andre とBig Boiがそれぞれのソロアルバムを作り、一つのレコードとして出そうというコンセプトだった。マーケティング観点では良くても、ファンの間ではグループとしてのケミストリーが感じられないと残念がる声が。「Hey Ya」や「The Way You Move」などのシングルは、それぞれのスタイルを見事に表現し、全てのトラックも彼らの奇抜さを強調できて非常に良かったのだが、陰陽のバランスを保つことには欠けていた。兎にも角にも、このアルバムは2000年代の最高レベルのダブルアルバムとなった。


“Street’s Disciple” by Nas, 2004 / “Sweat/Suit” by Nelly, 2005

その後、Nellyの「Sweat / Suit」、Nasの「Street’s Disciple」がリリースされ、どちらもヒットするも、リリースに至らない曲が多くあると失望感を抱いたファンは少なくなかった。一方The Diplomatsの「Diplomatic Immunity」は好評な結果に。他にも、Nate Doggや Kurupt、E-40など、多くのアーティストが続々とダブルアルバムを出した。


 “Underground Kingz” by UGK, 2007

2007年にリリースされたUGKのアルバム「Underground Kingz」。 Pimp Cは服役していたため、前のアルバム「Side Hustles」のリリースから5年が経っていたが、長い間待っていたファンにとって、合計29曲が収録されたアルバムは嬉しいサプライズとなる。しかし、その直後にPimp Cはこの世を去ることに。ファンや批評家の心の中に生き続けるクラシックアルバムとなった。


“SR3MM” by Rae Sremmurd, 2018 / “Mr. Morale & The Big Steppers” by Kendrick Lamar, 2022

ストリーミングの出現により、アルバムの形式は大きな変化を遂げた。 EP、アルバム、ダブルまたはトリプルアルバムでも、 聴き手が各々の好きなものをチョイスもしくはシャッフルして聴いたり、プレイリストとして聴く形が主流となった。 Drake、Vince Staples、Big KRIT、Rae Sremmurd、Migos、そして最近ではKendrickが、ダブル、トリプルアルバムを出している。どの曲をオンもしくはオフにすべきかについての会話は、インターネットやバーバーショップで果てしなく議論されている。もしかすると、それが彼らの意図なのか?