Streets is Watching:もしかして見逃した?BASおすすめのヒップホップドキュメンタリー(2021/22)
Text: B SABURO / Edit: Atsuko Tanaka
コロナ禍のステイホームが増えた今、私たちの生活に欠かせないものとなった動画配信サービス。「イカゲーム」、「タイガーキング:ブリーダーは虎より強者?!」、「マンダロリアン」など、爆発的な人気番組が誕生した。ヒップホップだって例外ではない。「Verzuz」で行われたバトルはあちこちで称賛の声が上がったし(TimbalandとSwizzBeatzには大感謝!)、今年のスーパーボウル ハーフタイムは、ついにヒップホップスターが舞台を飾るという歴史的瞬間を、国内外の多くの人が目にした。そんな中、素晴らしいドキュメンタリー作品なのに、気づかずに見逃してしまったものもあるかもしれない。そこで、最近のヒップホップベースのおすすめ作品を紹介したいと思う。
Biggie: I Got A Story To Tell
Biggieに関するドキュメンタリーはこれまでもたくさんあったが、これほど親密さと深さを感じられるものはなかったように思う。相棒のD-Rocが捉えた映像には、舞台裏でリラックスする無防備なBiggieの姿が映し出され、彼がどのようにして栄光を掴んでいったのかなどの様子も見ることができる。未だ明らかになっていない事件の真相、過ぎ去った過去について想いを巡らすのは辛い。たくさんの友人や家族、クリエイティブに恵まれながらも、あまりにも早く逝ってしまったBiggieの人生について、改めて考えさせられた作品だった。
This Is Pop: Episode 2 Auto-Tune
ポップミュージックの構造を解析し、私たちに馴染みの深い曲がどのようにして作られているかをまとめ、シリーズ化した「This Is Pop」。エピソード2のテーマは、ヒップホップカルチャーにおいて、常に対立意見の中心にありながら、不可欠な要素であるオートチューン。好きか嫌いかは別として、オートチューンがここ20年間のヒット曲の軸にあることは間違いない。このエピソードでは、オートチューンのソフトの黎明期から、シェールのヒット曲「Believe」に使われ主流になったこと、T-ペインやカニエが流行らせた全盛期までの流れを見せている。T-ペインの衝撃的告白にも注目を。
You Are Watching Video Music Box
まだこの映画を観ていない人は、これを読むのをやめて、すぐに観て欲しい…と言いたいほど最高なドキュメンタリー。監督を務めたのはNas。「Video Music Box」をプロデュースしたラルフ・マクダニエルズのストーリーを丁寧に紡ぎ、番組の歴史やレガシー、与えた影響力など、バランス良く構成している。また、Nasが余韻に浸りながら当時の様子を語るのもいい。聞いたことはあっても、実際に見たことのなかった、数々の伝説的なパフォーマンスの映像には驚くことだろう。
All The Streets Are Silent
監督のジェレミー・エルキンが振り返る、90年代初頭のニューヨークのヒップホップとスケートボードカルチャーに、心を奪われる人も多いはず。あの頃のシーンを知っている人なら懐かしく感じるだろうし、知らない人たちでも、当時のハンディカメラに収められ、美しく編集された映像を通して感じることができる。ストレッチ&ボビートやロザリオ・ドーソン、クラーク・ケント、ハロルド・ハンターなど、お馴染みのメンバーが出演しているが、この作品の本当のスターはホコリだらけのうす汚れたコンクリートジャングル、ニューヨークの街そのもの。サウンドトラックはラージ・プロフェッサーが手がけているし、まさに言うことなし!
Ricky Powell: The Individualist
リッキー・パウエルが去年亡くなってから間もないだけに、観るのに少し心構えが必要だった。映像を通して彼が人生で直面した多くの困難を目の当たりにすると、さらに心が痛む。しかし、いつもパワフルで、芯からニューヨーカー精神を貫いたリッキーが、毎日を最大限に生きていたことを実感できるのは間違いない。ストリートフォトグラファーとしての彼の才能は、彼が必要とする写真を撮るまで粘りながらも、被写体をリラックスさせ警戒をなくし、リッキーが彼らの仲間であるかのように感じさせてしまうところ。また、必ず正しい場所に正しいタイミングでいるという不思議な能力を持っていた。唯一無二のリッキー、もう会えないと思うと寂しい。
Rolling Like Thunder
グラフィティが描かれた電車を目にすることがなくなった今、電車に落書きするのは遠い昔のことだと思っているかもしれないが、そんなことはない。「Rolling like Thunder」は、貨物列車の落書きの世界にスポットを当てた作品。描かれたグラフィティは、列車と共に国境を越えていく。ライターたちは名声を得るために、これまで通り整然と秩序に基づき動いていた。マイアミとサンフランシスコのライターの間に起こるビーフも捉えられている。グラフィティは、忍耐力と献身さのたまものだ。
ボーナストラック:
Jeen-Yuhs: A Kanye Trilogy
この作品はみんなもう既にに知っていると思うが、まだ見たことも聞いたこともないという人は、きっと忙しかったのだろう(笑)。監督のコーディーが長い年月をかけてカニエをドキュメントしてきた「Jeen-Yuhs」を含めずに、このコーナーを終わることはできない。今のカニエについてどのように感じているかは関係なく、絶対に観るべき作品だ。 三部作となっており、一部と二部は、カニエの自信や、不屈の精神力、才能を発揮していく様子が捉えられていて、見たことのない貴重な映像が続々と出てくる。あの「カレッジ ドロップアウト」がどのようにして作られたのかを見れるとは、自分のようなオタクにはたまらないはず。ちなみに最後の三部はと言うと、昔のカニエが好きな人はスキップしてもいいのかもしれない。