アート界の伝説・Mister Cartoonの創造的な人生

Text & Photo: Atsuko Tanaka  


先月、レジェンダリーアーティストのMister Cartoonが、“Born & Raised”との最新コラボレーションを発表するために来日した。日本への強い絆を持ちながら、ヒップホップカルチャーに対し多大な影響力を放ってきたMister Cartoon。有名アーティストのタトゥーからアメリカのスポーツチームのデザイン、そしてオリジナルのカーケア商品のプロデュースまで、彼の芸術的才能には限界がなく、無限の創造性に満ち溢れている。

- 今回の来日目的である「Born & Raised」のポップアップイベントについて教えてください。

俺とBorn & Raisedのコラボレーションのお披露目イベントだよ。彼らとはファッションやコレクターアイテムに対する考え方とか、興味の対象に多くの共通点がある。昔からずっと日本に一緒に来ることが夢で、今回やっと実現したんだ。イベントではコラボで作ったTシャツやフーディーなど洋服のコレクションと29インチのBMXを発表して、それらをのちにアメリカで販売する。

- 素晴らしいですね。Cartoonさんは今回で日本は何回目ですか?

90年代から日本に来ているけど、途中から数えるのはやめたよ。時には1、2か月滞在したこともあって、日本の日常をより深く体験することができた。松屋で牛丼を食べたり、歩いて仕事に行ったり、タトゥーをしたり、ごく普通の生活を送っていたね。今回はLAの友達も一緒に来ていて、彼らの何人かは日本が初めてのやつもいる。この旅が俺たちにとって歴史的で思い出深いものになることは間違いない。

 

- Cartoonさんが初めて来たのは何年でした?

1992年だ。その時はタトゥーはやらずに、壁画とかローライダーの車に描いたりしていた。友人のユズルに日本の文化を紹介してもらって大好きになって、日本は俺の人生の一部になった。俺の家族にも日本を経験してもらいたいと思って、昨年の夏にみんなで来たんだ。今回は息子のLefteのみが一緒だけど、彼とこうしてまた来れることは俺にとってとても大切なことだし、本当にラッキーだと思ってる。

Mr. Cartoon and Lefte

-日本はCartoonさんにとって大切な国の一つと言えますね。

うん、また来たいと思う大好きな国の一つだよ。日本には強いつながりを感じるんだ。文化、たとえば細部へのこだわり方とか、家族に対する強い価値観とか、多くの共通点があると思う。

 

-では、子供時代についてお聞きしたいです。どのような環境で育ちましたか?

生まれたのは1969年、ロサンゼルスのダウンタウンで、ミドルクラスの強い絆を持つ家族のもと港の近くで育った。幼い頃からアートが好きで、父はよく俺をカーショーに連れて行ってくれて、その影響でクラシックカーが大好きになった。10代になるとローライダーカーにも興味を持つようになった。

 

- 幼い頃からアートに興味があったとのことですが、Cartoonさんのお父さんもアーティストだったんですよね?

そう、両親は二人ともアーティストだけど、プロではない。そもそもプロのアーティストになろうと夢見たことがなかったのか、彼らの時代はアーティストとしての仕事があまりなかったから、それが可能と思わなかったのかもしれないね。父は幼い頃に働いていた店で掃除から始め、のちにオーナーとして印刷所を経営していた。小さな店だったから、俺は訪ねてくるアーティストと会って話ができたり、彼らに絵を描くことを励まされたりして、とてもラッキーな環境にいたと思う。

 

- 前回お会いした時に、お父さんがあなたにお店の看板を描かせたりしたとおっしゃっていたのを覚えてます。

そう、初めてもらった仕事は父からだった。バーバーショップやテレビ修理屋とかの窓に店の名前を描いたりしたよ。当時俺はまだ若かったから、自分がやっていることについてちゃんと理解してなかったけど、毎日練習するうちに自信がついていった。その後、10代の頃に空手を習い始めて、俺の師匠は車の塗装工でもあったから、彼に車の塗装やアートを習ったんだ。それでさらなる知識を得て、これを追求していこうと思える自信に繋がった。俺はこれまで、絵を描くこと以外の仕事に就いたことがないんだよ。

- それはすごいですね。

周りに「お前は起業家だ」と言われることがあったけど、当時はその言葉の意味がわからなかったから、自分が起業家だとは気づかなかった。もちろんたくさんの失敗もしたけど、それがバランスをもたらすんだ。すべてを間違えずにやるなんて不可能だし、可能なら失敗から学ぶ方が賢明だと思う。

 

- 確かに。それで高校卒業後はどうされたんですか?絵を描き続けたんですか?

大学に行って、1年間だけサインペインティングを学んだ。どのビジネスも看板が必要だから、看板を描く仕事をすれば食っていけると思ったんだ。あとは相変わらずグラフィティを描いたり、タトゥーやT シャツとかロゴのデザインにも興味を持ち始めた。すごく楽しかったけど、ビジネスを理解しきれてなかったから色々大変だったね。

 - 初めて誇りに思えた仕事を挙げるとしたら何になりますか?

近所のお店のために描いた壁画。自動車修理工場に行って、店の宣伝になるような壁画を描かせてほしいと聞いて回ったんだ。車でその店の前を通りかかると、大きな壁に描かれた自分の壁画を見て、少し自信がついて、それからもたくさん描き続けた。それから、Kid Frost (キッド・フロスト)のロゴとアルバムカバーを手がけたら、それが彼の最初のゴールドレコードになったんだ。レコード屋で自分がデザインしたアルバムを見て、自分も音楽業界の一部になったと思えた。ヒップホップとソウルミュージックが大好きだったから、音楽業界の仕事を続けていくうちに、Eazy E(イージー・E) が最初のビッグチャンスを与えてくれた。ちなみに彼と会ったのは洗車場なんだよ。

 

- 洗車場ですか!

うん、俺はとても緊張しながら彼に名刺を渡した。のちに、彼はAbove the Law(アバブ・ザ・ロー)のアルバムカバーのデザインの仕事をくれて、俺はまた自信がついた。その後も壁画を描き続けたり、ローライダーの車にエアブラシで描いたり、地元の企業のロゴをデザインしたり。でもアーティストとして金を稼ぐのは大変で、誰かに「これができるか?」って聞かれて、そのやり方がわからなくても「できる」と言って、やり方は後で考えるなんてこともあったな。

- その後、プロのタトゥーアーティストとして活動するようになったんですか?

そうだ。タトゥ​​ーをやり始めてから、もっと稼げるようになった。例えば誰かのためにロゴを作ったとしても、支払いまで1ヶ月とか2ヶ月とか待たなければいけないけど、タトゥーは終わったらその場で支払いが受けられるからね。これはいいと思った。

 

- タトゥーの技術はどのように学んだんですか?

ストリートやショップとか、誰かがやっているのを見て学んで、それから友達にやることで経験を積んでいった。マスターするには一生かかるけど、常に学び続け、教えを受け入れ、オープンマインドでいることが大事だね。

 

- これまでたくさんのラッパーのタトゥーを手がけてきましたが、最初のお客は誰だったんですか?

最初の有名な客はCypress Hill(サイプレス・ヒル)。(フォトグラファーの)ESTEVAN ORIOL(エステヴァン・オリオール)を通じて彼らと知り合って、タトゥ​​ーをやったんだ。その後、彼らがGuru(グールー)やDJ Premier(DJプレミア)、GOODIE MOB(グッディー・モブ)とか、たくさんのラッパーを紹介してくれて、徐々に俺の知名度は上がっていった。俺はヒップホップが大好きだから、ヒップホップのスタイルをリスペクトして、ヒップホップカルチャーに貢献することはとても特別で大切なことだった。

- Cartoonさんが影響を受けたラッパーはいますか?

Cypress Hillだね。彼らは地元の仲間みたいな感じだったけど、世界的に有名になった。彼らがインタビューを受けたり、ラジオ番組やライブに出演しているのを見て、どんな仕事の仕方をしているかを見て学んでいったんだ。例えば彼らが海外を旅するなら、俺も海外を旅するというように、彼らのスタイルを真似てビジネスを理解しようとした。その後、彼らのツアーグッズも手がけたよ。

 

- 同じ時期にいろんなことをやられていたんですね。

タトゥー、ツアーグッズ、壁画、車、ファッションとか色々やったよ。例えばタトゥーアーティストでタトゥーだけをやるとか、1つのことに集中してマスターするやり方はすごく尊敬すべきことだと思う。でも俺は色々やる。時にそれはベストなアイデアではないかもしれないけど、俺にとってはアーティストになるための唯一の方法なんだ。

 

-これまで手がけたタトゥーの中で、最も思い出に残るタトゥーは何ですか?

背中のタトゥーかな。その人の人生の物語を語っているから、最もインパクトがあると思う。背中のタトゥーの多くはラッパーではなく一般の人のだから、普通の人はなかなか見る機会がないかもしれないけれど。

- タトゥーのアイデアはお客さんが考えたもので、それを元にCartoonさんがデザインするんですか?

そうだよ。彼らのアイデアを教えてもらって、それを紙に描いて見せるんだ。意見を聞きながら、彼らが納得いくまで修正を複数回繰り返す。一番難しいのは彼らを満足させること。もちろん、タトゥーを入れこと自体もとても難しいけど、他人のアイデアを扱うのはもっと大変だ。時に、アイデアとしては良く聞こえても、タトゥーにするにはイマイチなこともあるからね。

 

- なるほど。時間をかけて、彼らが気に入るまで事前にデザインを作るんですね?

いや、その日にやるよ。俺には他にもやらないといけない仕事があるから、セッションの前に何週間とかかけてアイデアに取り組むことはない。それは商業的な仕事をする時のやり方だね。

-では、ヒップホップシーンのここ30年間の変化についてはどう思いますか?

ヒップホップは鼓動であり、感情であり、常に進化するカルチャーだ。俺は常に新しい世代を理解しようと努力してるし、どの世代も好き。ヒップホップには常に本物のMCやグラフィティアーティストが存在してきた。テクノロジーは進化しているけど、自分の手を使って自身のスタイルを持つ必要がある。スタイルをどこかで買うことはできないし、誰かの真似をする人は尊敬に値しない。だから、どの世代にも素晴らしさがあると思ってる。

 

-確かにそうですね。ところで昨年カーケア商品をプロデュースされましたが、それについても教えていただけますか?

80 年の歴史を持つ「Turtle Wax(タートル・ワックス)」という会社と共同開発したんだ。彼らは家族経営で、俺と同じような価値観を持っている。俺は車のワックスにとても興味を持っていて、自分のオリジナルの商品を作るのが夢だった。開発に10 年ほどかかったけれどようやく完成して、とても誇りに思っているし感謝している。商品は今アメリカ、メキシコ、オーストラリア、カナダの車用品を扱う店で販売されていて、日本やアジアの他の国でも近々発売される予定だ。

- 素晴らしいです。また、近々ワインも発売されるんですよね。

そう。お酒は、以前モデロビールとかとコラボレーションをしたことがあったけど、今回はカスタムボトルを使用した独自のワインブランド「Title X(タイトル X)」を展開する。ワインはカリフォルニアで作られている最高級のワインで、ボトルはアート作品となる。

- 楽しみですね!他に取り組んでいるプロジェクトは何かありますか?

いろんなスポーツチームと仕事してるよ。ドジャースのために大谷のシャツをデザインしたし、NBAもやっていて、現在はサンアントニオ・スパーズのデザインに取り組んでいる。LA以外のチームもやるんだ。MLB、NBA、NFL、LAFCとか、いろんなチームのデザインを手がけたいと思ってる。

 

- ちなみに大谷選手に会ったことはありますか?

いや、でも彼のポートレートを2回描いたよ。エンゼルスにいた時と、ドジャースに移ってから。描くために彼の顔をいつも見ていたから、彼のことを知っているような気がするね。

 

- 最高です。では、Cartoonさんのアートのスタイルを一言で表すとしたら?

「クラシック」かな。昔ながらのスタイルを取り入れて、レトロなコンセプトとクオリティーを愛し、それを今の世界に取り入れるようにしてる。

- 今後はどんな展開を考えていますか?

コレクターアイテムを作り続けて、もっと多くの人が入手しやすいようにしたいと思ってる。今は限定版を出すこともあって、それらはすぐに売れてしまうからね。でも、俺はハードコアなスタイルのアートをキープしているから、大衆向けではないかもしれないけど、ある方式を貫けばできるかもしれない。将来的にはタトゥーをやる回数は減らして、もっと拡大していきたいと考えてるよ。

 

- そういえば、LAでバーバーとタトゥーのお店をやられているんですよね。

そう、「Master Deluxe(マスター・デラックス)」というブランドをやっていて、バーバー業界トップの会社とポマード、バリカン、シェーバーなどの製品を作ってるんだ。バーバー、タトゥー、車のカルチャーとか、男らしいスタイルで俺が大好きなカルチャーをすべて織り交ぜている。

- ちなみに、Cartoonさんにタトゥーを入れてもらいたい人は、お店に予約を入れたらタトゥーを入れてもらうことは可能なんでしょうか?

今はタトゥーはあんまりやってないんだ。なぜかと言うと、タトゥーは一人に対してしか出来ないからね。今はもっと多くの人にアプローチしたいと思ってる。とは言え、タトゥーはいつも俺の心の中にあるし、俺のウェブサイトを通して連絡を取ることはできる。もし何か良いアイデアがあって、LAに来れるなら、不可能ではない。友人からの紹介なら尚さらだ。

 

- 良かったです!では最後に、Cartoonさんにとってヒップホップとはなんですか?

人生だね。自分の子供たちと共有する音楽であり、着こなしや立ち振る舞い、描き方、全てがヒップホップだ。俺はグラフィティライターとしての頭脳を持っている。年をとって白髪になっても、きっと20歳のBボーイのように考えてるはずだ。そのおかげでいつまでも若々しく、競争心を持って、独創性を保ちながらかっこ良くいられると思う。