NYを拠点に活躍するフォトグラファーの飽くなき好奇心。チームと共に活動拠点を広げ、青山にオープンしたギャラリーで初の展示を開催

Text & Photo: Atsuko Tanaka  



ニューヨーク出身でフォトグラファーとして活躍するSteve John Irby(スティーブ・ジョン・アービー)、通称Steve Sweatpants(スティーブ・スウェットパンツ)。インスタをきっかけにファンベースを築き、2013年に仲間と雑誌「Street Dreams Magazine(ストリート・ドリームス・マガジン)」を立ち上げた。Street Dreamsのチームは現在15人ほどで、それぞれニューヨークやLA、バンクーバー、東京を拠点に活動している。彼らは去年、初のギャラリー「STREET DREAMS STUDIOS TOKYO」を東京の表参道にオープンした。先日自身の展示開催中に来日したスティーブをインタビューし、生い立ちや写真との出会い、Street Dreamsの未来についてなどを聞いた。

―スティーブさんはブルックリン出身と聞いていますが、どんな環境のもと育ちましたか?

生まれはブルックリンのイーストフラットブッシュだけど、育ったのはクイーンズのジャマイカなんだ。21歳の時にブルックリンに戻って、今はベッドスタイに住んでるよ。子供の頃はバスケが大好きだった。お母さんがニックスの大ファンだったから、それに影響されてね。ニックスの試合をいつも観ていたし、あとはお父さんとシェアスタジアムに野球を観に行ったりもした。とにかくいつも外で遊んで、クイーンズの端から端まで走り回っていた。それからビデオゲームが大好きで、学校に行くふりをして家に戻ってゲームしたりしてたな(笑)。

高校の頃の思い出と言えば、ちょうど50セントとかGユニットが売れ出した時期で、彼らがステッカーとかTシャツとかを配りに学校に来たんだ。クイーンズに住んでいたからこそのラッキーな出来事だね。彼らが今でもコミュニティから愛されているのは、そういった活動をしていたからだよ。

 

―それは盛り上がりそうですね!スティーブさんはクイーンズ育ちだから、やっぱりクイーンズのラッパーが好きなんですか?

クイーンズのラッパーも好きだけど、生まれはブルックリンだから、ブルックリンのラッパー、特にJay Zとかビギーとか好きだね。子供の頃は、トライブとかMobb Deep、LL、Heavy Dとかを聴いて、ヒップホップの黄金期をリアルに味わってたよ。好きなラッパーのトップ5を選べと言われても、いっぱいいすぎて選べないな。

―確かに。それで、高校卒業後はどうされたんですか?

大学に行ったんだけど、俺が18の頃、仕事帰りの夜にクイーンズで最悪な事件に遭って。茂みから突然男が出てきて、石の入った布で顔を殴られて大怪我したんだ。今でもメタルのプレートが3つ顔に入ってるよ。

 

―なんて最悪な…。

腫れた顔で学校に行くのが恥ずかしくて、仕事だけしているうちに結局大学に戻ることはなかった。仕事はテンプスタッフとして、オフィスワークとかいろいろやったよ。だけど2008年にリーマンショックが起こって、それ以降はそういう仕事が一切なくなって、「GameStop(ゲームストップ)」っていうゲームの店で働くようになった。そこが自分にとっての大学みたいなもんだね。

 

―写真に出会ったのはいつ頃だったんですか?

昔から写真は好きだったよ。特に家族写真が好きで、古い写真とか何時間も眺めていたね。でも、自分が撮るとなるとちゃんとやりたい性分だから、なかなか行動には移してなくて。その後、Hypebeast(ハイプビースト)のチャットルームを通して、ニューヨークのストリートシーンにいる人たちと出会って、当時の彼女のカメラを借りて、彼らの写真を撮ったり、コンサートとかを撮るようになった。カメラは高いから、まだ自分では買えなかったんだ。

それと、僕が24、5歳の頃にインスタができて、iPhoneが欲しかったんだけど、GameStopの給料は安くてiPhoneを買う余裕がなくて。親にお願いしてファミリープランでゲットしてもらった。それがなかったら今の俺はいないかもしれないから、マジで親には感謝だね!(笑)。その後、インスタのアプリをダウンロードして、まずはiPhoneで撮影の練習をして、そのうちカメラを買って撮るようになって、徐々に認知されていった感じだね。

ースティーブさんのインスタを拝見すると、最初の頃はビルとか自然とか、風景写真が多かったみたいですね。

そうだね、今でも撮るけどね。あの頃はフォトグラファーとしての成長期だったし、すごく楽しかったよ。ビルの屋上とか廃墟とか、いろんな場所に行って撮影したり、ロードトリップに行ったり、その時々で出会った情景を写真におさめていた。ブロンクスのフォトグラファー、LHピーターに出会ったのもその頃。僕みたいに、写真好きなマイノリティのやつと知り合えて嬉しかった。それである時、彼とフォトウォークに参加しようと言われて行ってみたら、なんと彼は現れなかったんだよ。そういう場は初めてだったから焦ったね。

 

―慣れない環境ですもんね。

知らない人たちと一緒に撮影会っていうので違和感あったけど、コニーアイランドで15人くらいといろんな所で撮影した。その後、別の機会にLHピーターと一緒にマンハッタンのハイラインを撮影しに行った。でも実は何をしたらいいかよく分からなくて緊張気味だったんだけど、すぐに打ち解けて長年の友達のような感覚だった。そして彼は自分の夢を追えって応援してくれた。そうやって家族以外の人に自分の写真を褒めてもらえることで自信が持てるようになって、この先も続けていこうと思った。

あとは僕のバーバー、AJにも感謝してる。彼も僕に自信を与えてくれたうちの一人で、彼がいなかったら、今僕はこうなっていなかったと思う。彼の店でお客さんの撮影をしたり、お金がない時は掃除のバイトをさせてもらったりもした。僕にとって家族みたいなものだ。Street Dreamsが始まったのも彼のおかげなんだよ。

ーそうなんですね、Street Dreamsはどんなきっかけで始まったんですか?

AJに、僕に会って写真を見たがってるバンクーバーのやつがいると言われて、後日会うことになった。AJはいろんなパーティーをやっていて、ある時彼のパーティーでめちゃかっこいいスニーカーを履いてるやつが入ってきて、話しかけたらそれがエリック(Street Dreamsの発起人の一人)だったんだ。僕らはすぐ仲良くなって、翌日会うことになった。エリックと彼の彼女とウィリアムズバーグブリッジを渡りながら、Street Dreamsの話をした。そこから僕の人生は変わったよ。

 

―スティーブさんもStreet Dreams Magazineみたいな雑誌をやりたいとずっと思っていたんですか?

正直言うと、元々はエリックとマイク・シー(Street Dreamsのもう一人の発起人でアートディレクター)のビジョンだったけど、彼らとコンセプトを話し合って形にしていった。最初の頃は当時僕がTumblr (タンブラー)でやっていた“僕が撮る誰々”みたいな、「Verses」というコンテンツのような見せ方で、僕とエリックの作品を載せる予定だったんだ。だけど、せっかくたくさんの素晴らしいフォトグラファーを知っているんだから、彼らをフィーチャーすべきだってことになって。それから今年で10年目だよ。時が経つのは早いね。

 

―今は年に何冊発行してるんですか?

今は1年に1回。最初は4回出していたけど、それが3回、2回と減っていって、1回になった。続けていくうちに、数が少ないほど、より自分たちのエネルギーと愛を注ぎ込めることに気づいて。焦って作る必要はないし、これは読者だけじゃなく自分たちに向けてのラブレターでもあるから、コマーシャル仕立てにはしたくないし。

―フィーチャーしているフォトグラファーは、いつもどうやって選んでるんですか?

フォトグラファーを選ぶ基準があるんだけど、自分のやっていることやプロセスが好きで、作品が良くて、人間的に良い人であることは大事だね。写真に対して愛や情熱を持っていない人はフィーチャーしたくないし、どんなに才能があっても嫌なやつとはディールしたくない。もちろん僕もパーフェクトじゃないけれど。探す方法は、インスタとかネットを探して見つけることもあるけど、友達とか信用できる人に聞くことのほうが多いかな。

 

―ギャラリーを東京にオープンされたのには理由があるんですか?

東京チームのNaokiさん(STREET DREAMS STUDIOS TOKYOのコー・ファウンダー/STREET DREAMS LAのファウンダー)とは2019年から一緒にやっていて、その年に代官山TサイトでStreet Dreamsの展示をしたんだ。その後も色々やる予定だったけど、コロナが起こって全て白紙になって、一からやり直しとなった。その後、2023年の5月にニューヨークで、Shopifyが持ってるスペースで展示をやった時にNaokiさんがKatsuさん(STREET DREAMS STUDIOS TOKYOのファウンダー)と来てくれて、今後東京で展示をするなら常設でやろうとなって。

ーそうだったんですね!

彼らは早速動いてくれて、その4ヶ月後(2023年9月)にこのギャラリーをオープンすることができたんだ。僕にとっては夢が実現した感じだよ。チームのみんなにはとても感謝してる。昔からアニメ、ファッション、ビデオゲームとか日本のカルチャーが大好きだったから、今こんなことが起きてるなんて、昔の自分からしたら本当に信じられないね。

―この展示は次に違う都市でやる予定なんですか?

いや、これは東京だけ。今回は僕にとって初の東京での展示なんだ。いつも他のフォトグラファーの作品を見せることにフォーカスしてるから、自分たちのスペースで、自分の作品を見せられるなんて最高だよ。

 

―レセプションはどうでした?

非現実的な感じだったよ。同じ場所にいる他の人たちが、自分の写真を見て喜んでる姿を見れるのは、インスタで作品にいいね!をつけられるのとは全く違って、影に隠れてみんなの反応を見ていたい気分だった(笑)。僕の写真は自分にとって大事なベイビーみたいなものだから、本当に嬉しかった。

―では、ご自身の写真のスタイルを一言で表すとしたら何になりますか?

「実直」だな。できるだけ自分に忠実にいることは大事にしてるよ。白黒写真が多いのは、見た人が何かに邪魔されることなく写真にフォーカスできるから。

  

―今、フォトグラファーはたくさんいますが、若いフォトグラファーに「オリジナルでいるためにすべきこと」をアドバイスするとしたら?

常に自分にも言っていることだけど、好奇心を無くすなってこと。写真でもアートでも、好奇心がなくなったら、アーティストとして終わりだと思う。何かに夢中になって、好奇心を持ち続けて、問いかけをして、続けていくことが大事。

 

―今夢中になってることは何かありますか?

スポーツの違う側面をドキュメントしてくことかな。バスケ、野球、相撲、eスポーツでもなんでもいいけど、選手がどうやって身体的に自分のリミットを超えていくのかを知りたい。選手同士が一丸となって同じゴールに向かっていくのは、美しいしパワフルだと思う。この前初めてマディソンスクエアガーデンでアイスホッケーの試合を撮って、選手に質問したりして、色々知ることができてとても楽しかった。

 

―好きなカメラとレンズはありますか?

カメラは、ソニーα7R III 。もう5年くらい使っていて、人生のいろんなアップダウンを一緒に乗り越えてきた、大事な相棒みたいなものだね。動きの早いものとか、予測できない動きの被写体を捉えるのに最高。レンズはその時々で色々変わるけど、85ミリが一番好き。それと、レアかもしれないけど、25ミリのF2もいいね。撮る際に、被写体に近づかないといけないから、親密になれる感じがいい。

―最近のSNSの写真のトレンドについてはどう感じていますか?

同じような写真が多いと思う。その時々で流行りがあって、みんな何がいいのかを探りながら修正していってる感じ。単に流行りを真似するんじゃなくて、それが自分のビジョンとマッチしているのか考えたほうがいいと思う。僕は誰かの真似はしたくないし、自分に忠実でいたいけど、流行りに関して、ただ文句を言うんじゃなくて、理解することは大事だと思ってる。いつの時代も真似はあるし、そこでどんな違いを生むか、だよね。

ーところで最近はどんな音楽を聴いてますか?

なんでも聴くよ。ハウス、ジャズ、ヒップホップ、メタル、パンクロック、ビデオゲームの音楽もいいね。その時代を反映している音楽とか、アップビートでメッセージ性があるものが好き。

 

―去年一番聴いた曲は?

メンフィスヒップホップにハマっていて、特にKey Glockが好きだね。ファンキーでハードでサイコーだよ。落ち込んだ時に聴いたらめちゃ上がる。

  

―そういえばスティーブさんはサウス系のソウルを感じますね。

僕のおばあちゃんとおじいちゃん達はケンタッキー、ノースとサウスカロライナの出身なんだ。子供の頃はいつも向こうに遊びに行ってたから、サウスの人たちのホスピタリティが自分の中に埋め込まれてるんだよ。カントリーブルックリンキッドだね(笑)。サウスは大好き。

―今後の夢や目標はありますか?

今やっていることを続けて、ギャラリーの活動も広げていきたい。いつかブルックリンにもギャラリーを開きたいと思ってる。あとは映画とかアニメを作りたい。そっちの業界でどうやって携われるかは開拓中。アイデアはたくさんあるし、自信があるから、多分いい方向に進んでいくと思う。

―楽しみにしてます!それでは最後に、スティーブさんにとってヒップホップとは?

全てだね。自分の表現の仕方であり、ポエティックにその時に起こっていることに忠実になれる。最近Jpegmafia(ジェイペグマフィア)が大好きで、頑張ってる姿を見て感化されてる。彼の曲「Kingdom Hearts」を聴いてると、まさに俺そのままじゃん!って思うんだ。とにかくヒップホップが存在しなかったら、今の世界は全く違うものになってると思う。その世界にはいたくないよ(笑)。