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サウスの Trill OG・Bun Bがニューアルバム「Yokozuna Trill」をリリース。日本のアーティストやカルチャーとの“ヒップホップ外交”を実現

Text & Photo: Atsuko Tanaka


テキサス州出身のヒップホップアイコン、Bun Bの最新アルバム「Yokozuna Trill」が先月リリースされた。アメリカと日本の文化交流を通して、互いのエッセンスをシームレスに融合したアルバムとなった。

ポート・アーサーという小さな町で育ったBun Bだが、キャリアを重ね、ヒップホップ界の伝説的地位を確立しただけでなく、Trill Burgersのような新たなビジネスを成功させ、常に境界を押し広げてヒップホップカルチャーの再定義に務めている。来日中のBun Bを取材し、ニューアルバムについてや、キャリアを通しての貴重な出来事、ヒップホップシーンの変化について思うことなどを語ってもらった。


— ニューアルバム「Yokozuna Trill」が明日リリースされますが(取材時)、アルバムのコンセプトについて教えてください。

俺の親友であるShu(2Tight Musicの創立者)がツアーを組んでくれて、そのツアーをプロモーションするために、日本のプロデューサーを起用した日本向けのアルバムを作ろうと提案してくれたんだ。文化交流の一環となる素晴らしいアイデアだと思ったし、プロデューサーが最高なトラックを提供してくれたおかげで、すごく良い仕上がりとなった。ちなみに今日はDJ Goが手がけた「Brand New」のミュージックビデオの撮影をしてるよ。半分はすでにテキサスで撮影して、残りの半分を日本で撮影するんだ。

 

— このアルバムにはDJ Goさん以外に、他にもプロデューサーがいるんですか?

うん、全部で7人のプロデューサーがいる。

 

— アルバムの制作はどのように進めたんですか?

Shuがたくさんのビートを送ってくれて、その中から自分が好きなものを選んで、レコーディングして彼に送ったんだ。ちなみに彼は、曲に日本語を含めようとアイデアを出してくれた。そうすることで日本のファンで英語が得意でない人も、内容を理解できるからね。

 

— 日本のプロデューサーと楽曲制作するのは今回が初めてですか?

うん、でもこれで最後ではないと思う。彼らはカルチャーの境界を越えた素晴らしい音楽を作ってくれて、どこで作られたのかわからないような、俺の地元で作られる音と同じように感じた。すごく楽しい経験だったし、才能あるプロデューサーたちとコラボレーションできて本当にラッキーだと思ってる。

 

— Shuさんとの出会いは?

Shuと初めて会ったのは、昔俺が日本に来た時だけど、彼はよくアメリカに仕事で来ていて、ヒューストンに来た時には人やものを紹介してたんだ。そうやって関係性を築いていって、2019年に俺とLe$(レス)の日本ツアーを組んで招致してくれた。彼はアメリカ、特にサウスやLAのヒップホップカルチャーに深いリスペクトを持っている。俺みたいに昔ほど音楽を作らなくなったアーティストをサポートしてくれる人と知り合えて感謝だよ。こうして日本に来て、喜んでファンに迎えられるのは本当にありがたいことだ。

 

— 素晴らしいです。明日からツアーが始まりますが、ファンにはどんなことを期待してほしいですか?

前にも日本に来たことがあって長年のファンもいるけれど、このツアーは収益のみを目的としたツアーではない。これは文化交流の一環なんだ。俺のカルチャーを日本に持ってくるのと同時に、俺も日本のカルチャーを受け入れたいと思ってる。

— 日本の文化で特に好きなものはありますか?

特に興味のあるのは日本のファッション。日本人は独特でユニークなスタイルを持っているよね。学制服を着た学生以外で、同じ格好をしている人はほとんどいないと思う。新宿や銀座、渋谷、原宿とかでファッションチェックをするのはいつも楽しみなんだ。

 

— ご自身もショッピングをする予定ですか?

もちろん!今回のアルバムの中にも渋谷でショッピングをしたことをラップしてる曲があるよ。

— 素晴らしいです!では、Bun Bさんの幼少期についてお聞きしたいと思います。テキサスご出身ですが、どのような環境で育ちましたか?

俺はヒューストンの郊外にあるポート・アーサーという小さな町で育った。工業都市で、経済的に恵まれていないような小さな町。何か大きなことを成し遂げるには、一生懸命働いて努力する必要があった。そういった環境で育って学んだのは、集中力と献身の大切さ。それが今でも俺の中に生き続けてる。

 

— ヒップホップに興味を持ち始めたのはいつ頃で、きっかけは?

俺が小さい頃、周りにいる年上の人たちが聴いたり、イベントに参加したりしてるのを見て、すごくクールだと思ったんだ。自分もそのカルチャーの一部になりたいと思ったけど、自分に資質があるかどうかは分からなくて、しばらくの間は音楽を聴いてサポートするだけだった。高校に入って、周りの友達が音楽を作り始めたのを聞いて、彼らができるなら自分もできるかもと思ってラップに挑戦してみた。最初はめちゃ下手だったけど、努力と練習を重ねるうちに上手くなって、今では最高のラッパーの一人だと思ってるよ。

 

— 間違いないです!ちなみに Pimp Cと出会ったのは高校生の時ですか?

うん、当時Pimp Cとグループを組んでいたミッチェルという共通の友人がいて、彼を通してPimp Cと出会って仲良くなったんだ。その後ミッチェルはフットボールの道を選んで、俺とPimp Cは音楽を続けて、UGKの結成につながった。

— 80年代のことですか?

始めたのは高校の時だけど、92年まで音楽をリリースすることはなかったね。

 

— 92年はUGKのファーストアルバム「Too Hard to Swallow」をリリースした年ですね。

そう、全てが急速に進んだんだよ。ヒューストンでラップグループを探してる人と出会って、俺たちの音楽を気に入ってもらって契約することになった。そこから俺たちのヒストリーが始まった。

 

— 当時のヒューストンのヒップホップシーンはどんな感じでしたか?

盛り上がる寸前って感じだったね。Rap-A-Lot RecordsみたいなレーベルやGeto Boys(ゲトー・ボーイズ)とか素晴らしいアーティストのおかげで、92年にはヒューストンは世界的に認知され始めていから、すごくいいタイミングでデビューすることができた。

— これまでのキャリアを振り返って、各年代での大切な出来事や思い出を挙げるとしたら何になりますか?

90年代の出来事で言ったら、俺らの最初のマネージャーと決別したことかな。ビジネスの面で彼に利用されてたんだ。それでPimp Cのお母さんがマネージャーをすることになったんだけど、彼女の貢献はとても大きかったし、グループとしての結束が固まった大切な転機となったね。2000年代は、Jay-Zから「Big Pimpin」でのコラボレーションのオファーを受けたこと。自分にとって一番大きいコマーシャルな成功と言えるし、世界ツアーを通して多くの観客にリーチすることができた。2010年代では、Jas Prince(Rap-A-Lot Recordsの創設者、James Princeの息子)を通じてDrakeを紹介されたこと。これまでDrakeのキャリアをサポートしながら、彼が世界的なスーパースターになっていく姿を見ることができてとても嬉しく思う。2020年代のハイライトは、コンサート「All-American Takeover」シリーズを成功させたこと。毎年観客が増え続けているのは、長いキャリアと継続的なファンのサポートのおかげだ。

 

— 素晴らしいです。では、これまでのヒップホップシーンの変化についてはどう感じていますか?

今のアーティストは、昔みたいにレーベルやラジオ局とかに依存することなく、SNSやストリーミングのプラットフォームを通して直接ファンとつながることができる。それによって、自分の作品からより多くのことや正当な評価を受けることが可能になった。アーティストが自立性を確立できていることは素晴らしいと思う。

— 最近のヒップホップは聴いてますか?好きなアーティストはいます?

聴いてるよ。デトロイト出身のBoldy James(ボルディ・ジェームス)や、ウェストコーストのSymba(シンバ)、テキサスのBigXthaPlug(ビッグXザプラグ)やThat Mexican OT(ザット・メキシカン・OT)とかが好きだね。

 

— 海外のアーティストについてはどうですか?

海外のヒップホップは最近聴き始めた感じだけど、例えば今回のアルバムで「Let’s Get To It」のリミックスで一緒にやったCz TIGER(シーズ タイガー)とか、海外アーティストとコラボレーションするのはアガるね。あと、Yuki Chibaの「Team Tomodachi」はアメリカでも超バズったからもちろん知ってるよ。彼みたいな才能をこれからも発見していきたいと思ってる。

 

— では、ヒップホップ界で生き残り、成功するためには必要なこととはなんだと思いますか?

まず、現実的であることは大事だ。誰しも有名でい続けることはとても難しい。だから自分が成功していない時でも、ファンとの強いつながりを持っていられるように努力することが大切。アプローチしやすく、サポートしてくれる人たちにリスペクトの心を持って感謝する。彼らが君に興味を持って時間を費やしてくれていることを忘れず、それに応えること。

— 貴重なアドバイスをありがとうございます!では、Bun Bさんの音楽のスタイルを一言で表すとしたら何になりますか?

「Trill」だね。困難や障害を乗り越えながら、自分自身とビジョンに忠実であり続けること、それが俺の音楽を定義しているよ。

 

—ちなみにニューアルバムのタイトルは「Trill Yokozuna」ですが、タイトルに「Yokozuna」という言葉を使おうと思ったのは、Bun Bさんのアイデアですか?

そうだよ。日本の文化への敬意を表したいと思ったのと、特に相撲からインスピレーションを受けたからね。でも、ただの力士じゃなくて、“最高の”力士がいいなと思った。それが自分のレベルに相応しいと思ったし、俺はお腹も大きいし(笑)。それでShuたちと話して「Yokozuna」という言葉を提案されて、「Yokozuna Trill」にしたんだ。

 

— 最高です!ではTrill Burgersについてもお聞きしたいと思います。2021年に始めて、“チーフバーガーオフィサー”として活動されているそうですが、なぜバーガーレストランを始めようと思ったのですか?

きっかけは友人からの提案だったんだけど、バーガーを試食してみたらすごく美味しくて、一緒にビジネスを始めることにしたんだ。その後Trill Burgersは大成功を収めて、今多くの支持を受けてるよ。長年のファンや友人と新しいものを共有できてとても嬉しく思ってる。通常はヒューストンのみでの展開だけど、Trill Burgersをもっと広げたいと思っていて、違う都市にも行くこともある。今度アトランタで開催されるRick Rossのカーショーに参加する予定だ。

— いいですね!ちなみにビーフだけでなく、ヴィーガンバーガーも提供されていますが、人気ですか?

うん、すごく人気だよ。ヴィーガンオプションを提供することで、例えば食事制限をしている人や軽い食事の気分の時とか、より多くの人やシチュエーションに対応できるからね。Trill Burgersは、ヴィーガンの人も、そうでない人もウェルカムしたい。

 

—他に、最近取り組んでいるプロジェクトはありますか?

今はTalib Kweli(タリブ・クウェリ)とコラボアルバムの制作を進めていて、年末までにリリースを目指してる。それからヒューストンのプロデューサー、Cory Mo(コーリー・モー)と一緒に、昨年の「Mo Trill」に続く新しいアルバム「Way Mo Trill」の制作をしてるよ。

 

— 楽しみです!では最後に、Bun Bさんにとってヒップホップとは?

俺にとって全てだね。大事な友達との出会いや、家族をサポートすることができたり、想像もつかないような機会を提供してくれて、世界にポジティブな影響を与えることができた。音楽から起業家精神まで、ヒップホップは俺の人生のあらゆる面に深く関わっている。この旅に連れて行ってくれて、ヒップホップに感謝しかない。

Yokozuna Trill

先日4公演のジャパンツアーを大成功させたUGKのBUN-B。ツアー会場で先行発売されたニュー・アルバム “YOKOZUNA TRILL” の全国発売が解禁された。アルバムタイトルの通り南部の横綱TRILL OGのロー・トーンなド渋RAPがキレッキレに冴え渡った大作である。ギャングスタラップの名門レーベルIITIGHT MUSICの指揮のもと、全曲和製ビートで制作された本作。Lil'Yukichi, DJ☆GO, OVER KILL, BOHEMIA LYNCH, Koshy, DJ DEEQUITE, DJRYOW & SPACE DUST CLUB, TRIGGA BEATZがプロデュースで参加。またLil Keke, LE$, Jay Worthy, Cz TIGERなど客演もツータイトならではの布陣だ。この奇跡の日米合同企画、お聴き逃しなく。

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