JAMES
開店: 2017年6月
業種: アメリカンフードショップ
地区: 埼玉県朝霞市
オーナーのモットー: 自分の正義のためなら世間に喧嘩売れ
Text & Photo: Atsuko Tanaka
オーナーのIMUHA BLACKは埼玉県東松山の出身。中2の頃から地元のカラーギャングに属するも、ある深夜のテレビ番組でZeebraのライブを見て衝撃を受け、ヒップホップにハマっていく。最初は日本のラップを聴いていたが、高1でターンテーブルを買ってDJを本格的に始め、出会った先輩の影響でUSのヒップホップにのめり込む。渋谷のクラブで夜な夜なDJをする日々を過ごし、高校卒業後はスタジオエンジニアの専門学校に入学。しかしすぐに辞めて、仲間とニューヨークに行き、リアルなヒップホップにさらなるパンチを喰らった。
帰国後は変わらずDJをやりつつ、ビート作りやラップも始めた。時代がアナログからデジタルに移り変わった頃、つまらなさを感じ、現場からは一線を置くように。家でひたすら曲作りに専念する一方で、二十歳くらいから荷上げの仕事につく。300万くらい貯金をして、22歳の時に地元で居酒屋をスタート。昼間は荷上げ、夜は居酒屋をやり、家に戻ると朝まで曲作りの生活を送った。
そして2年半すぎた頃、居酒屋に未来を感じず閉店。知り合いを通じて荷上げの会社で契約社員として1年半ほど勤めたのち、27の時に独立して自身の建築会社を設立する。JAMESをオープンしたのは、その3年後。どのような経緯で始めることになったのか、店にまつわることから、自身のラッパーとしての活動についてなど、話を聞いた。
―この店をオープンしたきっかけを教えてください。
独立してから2年の間に貯めたお金で、本当はニューヨークに行く予定だったんすよ。やっぱり向こうに住まないと、自分の中でリアルなヒップホップが完成されないと思って。それでビザを申請して、自分の会社も友達に上げて、全然余裕で行けると思ってたら結局ビザが下りなくて。だったらここにアメリカを作ってやろうと思って、貯金1千万をぶっ込んでこの店を始めました。
―そうだったんですね!店のコンセプトは?
アメリカすね。19で初めてニューヨークに行った時に、現地の小学生くらいの子たちがケンタッキーに溜まってラップしてるのを見て、こんなふうに溜まれる店がやりたいと思ったんです。昔で言う、駄菓子みたいな感じすね。形は違えど日本にもコミュニティの場所があったんですよ。
―店名「JAMES」の由来はどこから?
クレイジーな生き方が好きなんで、ジェームス・ブラウンの名前から取りました。彼ってミュージシャンとして成功した後も、警察に銃ぶっ放したり、破天荒すよね。人の名前って愛着あるし、あと俺の誕生日とジェームスの命日が一緒なのもあって、合致した感じです。
―人気のメニューはなんですか?
チキンオーバーライスとか、サンドイッチも人気で、特にBLT がおすすめ。パンもそうだし、ベーコンやハムとかの加工肉も全部自分で作ってます。ジャンクに見られがちだけど、意外とそうじゃないんすよ。ちなみにパンは、ABCのクッキングスクールに通って習って、ちゃんと卒業しました。
―すごい!ハマり症なんですね。でも一から作るのは大変そうですね。
一回ルーティン覚えちゃえば別に。俺は気になるものは全部やってみます。やってみたら意外とできるもんなんで、めんどくさいっていう概念はとりあえず捨てて、ディぐりまくる。ヒップホップと一緒す。今はYouTubeとかネットでなんでも情報得られるし、あとは人脈があって、詳しい人に学ぶことができればさらに深くいける。情報の得方と人脈で、どこかで働かなくてもプロになれちゃうと思います。
―では、今までに店で起きたことで、一番印象的な出来事について教えてください。
事件的なことで言うと、ガスボンベが目の前で爆発して火傷した。あとはやっぱり、舐めダルとかANARCHYとか、いろんなアーティストが来てくれるのはめっちゃ嬉しいっすね。今は自分もアーティストとの距離が近くなってるけど、10何年前の俺からしたらやばいことがたくさん起きてるとは思います。それと、店で起きたことではないけど、今年の8月に周年イベントでDJ MUGGS(マグス)を呼んだことかな。周年イベントは4年目まではここでやってたんですけど、人が来すぎて、去年からAsiaでやるようになりました。あとは従業員のためにも、いつも同じようなことをやっててもつまらないんで、自分もワクワクするようなことをやってステップアップしていくことは常に考えてます。
―店を続けてきた中で大変だったことや苦労したことは?
始めた頃は金がなくて本当に大変でした。風呂のない部屋に2年くらい住んでましたよ。でも結局やるしかないから、それに尽きるんだよな。“Do it”でしかない。まあ体力的な限界は若い子達に比べたらあると思うけど、ダッシュはできなくても自分のペースで歩き続けることはできる。店を存続させるためにはただ店にいるだけじゃ絶対ダメなんで、何をしたらみんなに面白いと思ってもらえのか、いつも考えてるし、待ってくれる従業員がいてくれるんだったら自分が動くしかない。
―具体的に、どういうふうに動けば変わりますかね?
そこは不思議と、人とつながってそこに信頼関係が生まれると、その人が持ってる人脈を共有してくれるんですよ。余裕のある人たちって、自分の人脈や財産を惜しまず共有してくれるから。反対に余裕のない人間は隠そうとするけど。俺は余裕のある人間が好きっす。そういう人には素直に動くし、何も考えずめちゃくちゃ手伝う。若い時はわからなかったけど、今はわかるからお金で物事は判断しないです。
―ところで2ヶ月前に2店舗目の「BUGSY(バグジー)」を出されたんですよね。
そろそろ出してもいいなって時期に、知り合いから人気物件の空きの情報を聞いて。元々のお店の歴史も好きだし、オーナーだったママがちょー元気でオシャレな人で、その人間性にも喰らって、ここだったらやりたいなと思って決めました。同じ店の2号店を出すのは嫌なんで、あっちはメキシカン。店名は人の名前シリーズでやりたかったから、BUGSYにしました。ベガスのカジノを作った、イタリア系の有名なマフィアで、ラッパーのBEANIE SIGEL (ビーニー・シーゲル)の名前の由来の人です。ちなみに、いつかチャラい店をやる時はDidi(ディディ)にしようと思ってます(笑)。
―いいですね(笑)。では、ラッパーとしての活動についても聞かせてください。結構コンスタントに曲を出されてますよね。
ですね、日本一作ってんじゃないかな。めっちゃ自信あるす。今年2枚出して、まだ出せてない曲がアルバム3枚分くらいある。ミックスとマスタリングは自分でできないから、そっちが追いつかなくて回らないんすよ。
―お店を2軒と建築の会社もやって忙しいのに、リリックはいつ考えるんですか?
俺、リリック書かないんで。USのやつと同じやり方です。マイクの前で好きなビートかけて、重ねてくスタイル。昔は書いてたんすけど、日本語だと特に韻を気にして固くなっちゃうから。
―事前に考えないと出てこなそうなものですが、出てくる?
最初の歌い出しのフロウさえ、宇宙語でもいいから出ればいいんすよ。いいビートがあったら、調子いい時は1日に3曲くらい作れる。逆にどんなにかっこいいビートでも、自分がいいと思うフロウが浮かばなかったら、そのビートは俺に向いてないってことでやめます。
―なるほど。MVもかっこ良いですね。
ありがとうございます。ちなみにファッションの話をすると、普段自分は西系やスケーター寄りの格好をしたり、バイクに乗る時はタイト目のバイカー系とかを着たりするんですけど、MVの撮影やライブに出る時は絶対Mitchell (Mitchell & Ness /ミッチェルアンドネス)を着る。あの感じがやっぱ好きっすね、ダボダボで。日本だと着てるやつは全然いないけど、USのやつはMitchell も、Pelle Pelle(ペレペレ)とかAVIREX(アビレックス)もいまだに着てるし、着方がオシャレ。たまに「このファッションありなの?」みたいなのもあるけど、それでもかっこいい。ASAP(エイサップ)とかもそうすよね。
あと思うのは、ファッションもそうですけど、音楽の面でも例えばASAPがMethod Man(メソッド・マン)をフィーチャリングしたり、Meek Mill(ミーク・ミル )がDMXの曲をサンプリングするとか、下の世代が上へのリスペクトをちゃんと持ってる。でも日本はそれがないから、何も継承されていってない。まあでも日本のシーン全部を変えるのは難しいし、ぶっちゃけ俺は自分が関係してる環境さえちゃんと出来てれば幸せだけど。だからメディアを見るのとか興味ないし、ヤフーニュースとかも全くチェックしない。外の情報で見るのは、USのラッパーのことだけ(笑)。
―(笑)。USのラッパー情報以外入れないのは、逆に難しそうですが。
知り合いで俺以上のUSバカの人がいて、その人からYouTubeのリンクとかがひたすら送られてくるし、もう一人ウエッサイ好きな人から、これから来そうなやつの情報が来るんすよ。なんでそれで十分。俺は今、何もディグってない。家に帰ったら自分の曲を作るだけす。
―ブレずにいいですね!では店の話に戻って、付近のエリア(朝霞)について、どんなところか教えてください。
平和でつまらない街。これって言うスポットは本当に何もないんすよ。クラブもないんで、逆に“ヒップホップのスポットはJAMES”ってなってるんでいいですけど。何かいいところを挙げるとしたら、静かで住みやすくて、交通の部分で便利。渋谷も横浜も1本で行けるし。
―最後に、今度初めてJAMESさんを訪ねてみようと思っているお客さんにメッセージをお願いします。
日本人は新しいお店に来ることにビビってる人が多いと思うけど、うちはさらに入りづらいと思うんで(笑)、海外だと思って来てほしい。でも1回来たら、大体みんな他のお客さんとか従業員と友達になって常連になるんすよ。だから偏見を持たずに実際に来て確かめてもらえたらと思います。
JAMES
Address: 埼玉県朝霞市西弁財1-5-13
Phone: 048-466-6577
営業時間: ランチ/11:00-14:00 l.o13:30 ディナー/19:00-24:00 l.o23:00
Instagram: :@j_a_m_e_s_1513/