Life Size Cribe

開店: 2015/3/1

業種: Coffee Stand & Roaster

地区: 東京都国分寺

オーナーのモットー: Fall seven times, stand up eight (七転八起)

Text & Photo: Atsuko Tanaka

小学生の頃からバスケを通してヒップホップにハマった吉田は、高校生でブレイキンに出会い、Bボーイとして活動するようになる。先輩らとクルーを作り、埼玉や東京などのクラブで行われたBボーイバトルに出場した。大学時代もダンスを続け、卒業後はアパレルの道へ進むことも考えたが、友人の勧めから大手コーヒーチェーンに就職することになる。理由は主に経営やマネージメントを学ぶためだったものの、だんだんとコーヒーの魅力に目覚め、ある日たまたま訪れたポール・バセットで衝撃的なエスプレッソに出会うこととなる。その後取り憑かれたように店に通い続け、最終的に会社を辞めて、2年間その店で働き技術を学んだ。そして2015年に学生時代からよく遊びに来ていた国分寺に自身の店「Life Size Cribe」をオープンする。

ー吉田さんが経験した、電撃的なエスプレッソとの出会いについて教えてください。

学生時代からコーヒーは好きで飲んでいたんですけど、当時はコーヒーそのものよりも、コーヒーを飲みながらタバコを吸って本を読む自分が好き、みたいな感じだったんですね。でも大学を卒業してコーヒーチェーン店に就職してからは、だんだんとコーヒーに興味を持つようになって、2年くらい経った頃にバリスタという存在を知って、いろんなカフェにエスプレッソを飲みに行くようになりました。その流れで、ある日たまたまポール・バセットに行ったんです。エスプレッソに砂糖を入れて飲むのが当たり前と思っていたんで、いつものように砂糖を入れようとしたら、「良かったらそのまま飲んでください」って言われて。社交辞令で分かりましたって飲んだら、「なんだこれ、どうなってんだ!?」って、毛穴が全部開くくらいの衝撃を受けて。

 

―どんな味だったんですか?

それまで感じていたようなエスプレッソの苦味じゃなくて、甘みとフルーティーさがあって、ドロドロしたダークチョコレートみたいな感じ。それで取り憑かれちゃって、毎日仕事が終わって店に通うようになったんです。でもなんでそういう味なのかが聞けなくて、ただ後ろからじっと見るだけしかできなかった。同じ豆を買って同じことをやっても全く美味しくならないし、どうしてもここで働きたい!って思うようになりました。それで会社を辞めて、履歴書を何度も送った挙句直談判しに行って、翌年に渋谷店がオープンするタイミングで入れてもらえることになって。

―働いてみて、どうでした?

まず豆や淹れ方も違えば、コーヒーに対する概念もそうだし、何もかもが僕が知ってた世界と違いすぎることがわかりました。そこからは本当に駆け足で色々学んでいった感じです。すごい体育会系の店で、僕自身も自分にも他人にも超厳しかったんで、嫌われてたとは思うけど、いずれ独立して自分の店を持つために気合入れて働きました。

―そうしてご自身のお店をオープンされたわけですね。店のコンセプトはなんでしょう?

店名の“Life Size” は「現実的な生活感、等身大」、“Cribe” はCrib to liveの略で「秘密基地、集いの場、大切な場所」を意味しています。人の生活は十人十色であり、それぞれの日常に流れやリズムが存在する。コーヒーの無限の可能性と共に、ここでは背伸びすることなく、ありのままの自身になっていただきたいです。五感で楽しめるトップクォリティのコーヒーとChill & Cozyな時間をご提供します。

―オープンされてから7年ほど経ちますが、軌道に乗るまで苦労されたことはありましたか?

オープンする前は、ブルーボトルとか外資系のコーヒー屋さんが日本に入ってきた頃で、新しいコーヒーカルチャーが広まりつつあったし、自分の店は国分寺とは言え新宿から20分だから「みんな来てくれる、これからすごい面白いことが始まる!」なんて妙な自信があったんですよ。実際そんなのは少数派で、最初の3ヶ月くらいは来てくれた仲間たちもその後パタッと来なくなって、来てくれるお客さんは僕が提供したいと思うコーヒーには興味がない。なんでわかってくれないんだろうって葛藤した時期が続きました。色々悩んだ末、コーヒーを美味しくするということよりも、まずはお客さんとのコミュニケーション作りが大事なことに気づいて。

―具体的にどんなことを変えていったんですか?

気張った接客はせず、まずは朝、店の前を掃除するようにして、通りがかりの人に「おはようございます」「最近コーヒーを始めたんです。ちょっと面白い店なので来てください」とかって声をかけるようにしました。それで来てもらえたら、今度は会話の中でまた来てもらえるきっかけを作って次に繋げていく。この辺は、渋谷や新宿とかとは違ってスピード感がないことをちゃんと理解したんで、太く長くゆっくり上がっていくように、地道に一個一個やっていきました。そんな感じで2、3年くらい経った頃には、だんだんとコミュニティが広がっていって、いろんなお客さんが来てくれるようになりました。

ー良かったです!では、店自慢のメニューを教えてください。

苦味や酸味とは別次元の、華やかでフルーティな、甘さを感じるドリップコーヒーやカフェラテです。エスプレッソに至っては、合法ドラッグと言って良いほど濃縮された魅惑が詰まっています。

― そそられます(笑)。ところで、吉田さんはこれまでラテアートの大会で日本一になられた経験をお持ちなんですよね。

2017年に「CRAZY BARISTA」という大会で日本一になりました。学生の頃はBボーイとしてバトルにバリバリ出ていましたが、ダンスバトルとラテアートの大会はとても近い部分を感じましたね。

 

―近い部分とは?

Bボーイのバトルって、決まった時間の中DJがかける曲で踊って、お互いのスキルを出し合うんですけど、それはもう日頃の練習とセンスの賜物で、ラテアートの大会もまさに同じで。いろんな種類のラテアートの大会がありますが、僕が優勝した大会は制限時間が3分で、ラテを淹れるスピードや柄の独創性、難易度、バランス、コントラストなどを競い合います。初めての豆やマシーンを使って、「相手は多分あれで来るから俺はこれで行く」とかって瞬時に考えて、みんなに注目されてる中作る。最初は緊張で手が震えることもあったけど、助かったのはダンスバトルで見られることに慣れていたんで結構楽しめたことですね。

ーこれからラテアートの大会に挑もうとしている人たちにアドバイスをするとしたら?

僕が大会に出た頃は今みたいに情報がなかったんで、自分で色々試行錯誤しながらやってましたけど、今はいろんなお手本があるし、みんな基本のスキルはすごく高いです。でもやっぱり大事なのは基礎ですね。大会で一発できるとかじゃなくて、日頃から常にお客さんに美味しいものを提供することの延長にあるものなんで、まずクオリティコントロールをするのは、コーヒーだけじゃなく自分自身のマインド的にも養って、ちゃんホスピタリティのあるバリスタになってほしいなと思います。

 

―ヒップホップにおいてオリジナルのスタイルを持つことはとても大事ですが、コーヒーもそうですか?

それはもうすごく大事ですね。コーヒーは、豆やマシーン、水もそうだし、どこで淹れるかとか、いろんな因果関係が関わってくる。そんな中、僕自身のオリジナリティは何かと言うと、オリジナルのブレンドなんですね。浅煎りも深煎り両方行けます。片方をとことんやったからこそ、もう一方もわかるんです。

 

―味を表現するとどんな感じでしょうか?

めちゃくちゃ官能的で甘いです。エチオピアのナチュラルという豆を使っていて、中浅煎りの「Lady Brown」はストロベリーっぽい味で、中深煎りの「Green Continent」はカシスとかドライフルーツよりの味。ヒップホップ のちょっとサグな感じとか、うちから湧いてくるアドレナリンみたいな強さとかをどう味に落とし込むかを考えて、自分自身がハイになれるものを目指して作りました。すごい衝撃的な味なので、コーヒーを知らない人が飲んだら、「何これ!?」ってなると思いますよ。

 

―そんな吉田さんのスタイルを一言で言うと?

「Coffee Smith」です。僕はバリスタでもあり、ロースター(焙煎士)でもあり、サービスマンでもあります。Smithとは古い英語で、「職人」や「匠」を指します。そんな少しオールドスクールな意味合いも含めて「珈琲職人」の自身をCoffee Smithと表しています。

―では、今までに店で起きた出来事で、一番印象深い出来事を教えてください。

週に一度必ず来てくれていた老夫婦がいたんですが、おじいちゃんはとても寡黙な方で、僕は毎回おばあちゃんと色々会話をしてました。ある日、そのおばあちゃんが一人で来て、遠くに引っ越すことになったからもう来れなくなると伝えに来てくれて。その時に、それまでおばあちゃんが僕に聞いてきたことは、実はおじいちゃんに聞いてくれと頼まれたことだったと知りました。それっきりになってしまったので、僕がもっとおじいちゃんに心を開いて話しかけていたらという心残りがあります。なのでそれ以降は、会いに行きたい人がいたらすぐ会いに行くとか、会話をしたいと思ったら自分から話しかけるとか、ちゃんと行動に移すようになりました。人間的に成長できた出来事でしたね。

 

―素敵な話をありがとうございます。では、店付近のエリアについて教えてください。

国分寺はいわゆる東京西側の下町ベッドタウンで、カルチャーの歴史もありつつ穏やかな時間が流れる場所です。個人系のお店が多く、良いユニークさがあって面白い場所です。

 

―最後に、Life Size Cribeを訪ねてみようと思っているお客さんにメッセージをお願いします。

見た目も中身もちょっとクセのある店主ですが、根は真面目です(笑)。その日の気分に合わせて感動するコーヒーを提供します。是非、 Chillしに来て下さい。

Life Size Cribe

Address: 東京都国分寺市本町3丁目5−5

Phone: 042-359-4644

営業時間: 12:00-19:00(L.O18:00) 定休日:日曜、不定休

Web: https://lifesizecribe.com/

Instagram: @lifesizecribe