Text & Photo: Atsuko Tanaka
NAGAN SERVER in MARKET
―今日のファッションのポイントを教えてください。
ポイントは、モードと古着のミクスチャー。それは昔から変わらず自分の中にあるテーマかもしれないです。ヒップホップを始めてからジャンル問わずいろんな音楽のサンプリングをしてきて、いろんなカルチャーが自分の体に入ってるんで、自然と服もミクスチャーで、いいものはいいって感じで選んじゃう。あとは自分の友達のブランドも着るようにしてます。
ジャケットは「NAMACHEKO(ナマチェコ)」っていうスウェーデンのブランドで、インナーは「COMME des GARCONS(コム・デ・ギャルソン)」の00年代のサイケ期のロンT。パンツは「T-MICHAEL(ティーマイケル)」っていうノルウェーのデザイナーので、このシリーズのパンツは大好きで何本か持ってます。靴下は大阪の「Whimsy(ウィムジー)」で、多分このブランドが始まって以降ほぼ毎日ここの靴下を履いてる。靴は「TIGHTBOOTH(タイトブース)」。彼らとは自分がラップを始めた頃から一緒に色々やってて、モデルもしてました。カバンとサングラスはヴィンテージで、指輪はメキシコの三大ジュエリーと言われている「LOS CASTILLO(ロス・キャスティロ)」と、「Laila Vintage(ライラ・ヴィンテージ)」っていうショップで買ったものです。
―それぞれにすごいこだわりを感じます。ファッションは元から好きだったんですか?
ファッションに目覚めたのは小4ぐらいですね。ラスタカラーのガチャベルトを見た時に、俺もつけたいってなって、そこから親にお願いして自分の服は自分で選ばせてもらうようになりました。小5の時は、ランドセル代わりにdj hondaのリュックを背負ってたな(笑)。その頃それが超出回ってたんですよ。当時はdj hondaって誰か分かってなかったけど、なんかかっこいいみたいな感じで。大人になってからは、自分で服を作ってた時期もありますよ。きれい目なシンプルので、型から作ったものもあればプリントものも。
―最近好きなブランドやファッションスタイルはありますか?
ブランドは友達がやってる「REVERBERATE(リバーバレート) 」ですね。もともと Vivienne Westwood(ヴィヴィアン・ウエストウッド)とMalcolm McLaren(マルコム・マクラーレン)の息子であるJoe Corre(ジョー・コーレ)による「A CHILD OF THE JAGO(ア チャイルド オブ ザ ジャゴー)」にて縫子として経験を積んだ星くんがUKで立ち上げたんですけど、自分と考え方がちょっと似ていて、誰もやったことのないことをやりたいっていうので、最近はアムステルダムに移って、日本に入ってないカルチャーをファッションに落とし込もうとやってるんです。パターンも素晴らしくて、どんなに大きなサイズでも誰にでもハマるように全てが考えられて作られている。彼の想像力は同じクリエイターとして刺激になりますね。
―洋服は普段どこで買うことが多いですか?
ここ(MARKET)が多いですね。オーナーのRanと趣味が似ていて、置いてるものが好きなんで。あと、基本は古着屋が多いかな。ネットで買うこともありますよ、普通にメルカリとかディグったり。でもただネットで買うだけじゃ思い入れがないし、出会いやストーリーを大切にしたいんで、何か欲しいものがある時は店で見て着てから買います。
―ファッションスタイルを参考にしている人は?
ヒップホップを始めた時はNas(ナズ)の格好が好きでティンバー履いたりとかはあったけど、今は全くいないです。参考にするのは人じゃなくて、ふとした時に見る街中の看板の色合いとか。いい色合わせがあると、それをファッションに応用します。
―SERVERさんの色合わせのセンス、めっちゃいいですもんね。
色はめちゃこだわってます。サイズ感も、こだわりすぎやろって周りによく言われますけど、ほぼ自分の形に直すんですよ。専用のお直し屋さんがいて。オーバーサイズで買えば自分の形に直せるから、オーバーサイズを買うことが多いですね。
―他の人のファッションをチェックするのに見るサイトとかはあります?
VOGUE の YouTubeとかストリートスナップはよく見てます。
―では、世界で一番オシャレな人が多いと思う街は?
ロンドン。そして、日本も!VOGUEとか見てると、向こうは日本のファッションを参考にしてるし、俺らは向こうを参考にしてたりするから、そういう時代になったんだなって思います。
―では、ファッション・ビューティーで欠かせないアイテムは?
このアフロドレッドは自分のトレードマークなんでこれですかね。最初はゴリゴリのドレッドだったんですけど、もうちょっとイメージを柔らかくしたくて、美容師と一緒に考えてアフロとドレッドを混ぜたこのスタイルに辿り着きました。あとはサングラスとかアクセサリーが好きでずっと集めてます。
―ファッションではないですが、レコードも集めているとのことで、今日は少しお持ちいただきました。
レコードは、自分の中でヒップホップを感じるハウスとか、レコードでしか出てないエディットもの、例えばSade(シャーデー)のハウスリミックスとかFela Kuti(フェラ・クティ)のブートのエディットリミックスとか、あとは元ネタももちろんずっと買い続けてます。ジャズも現行のものから古いもの、それプラス日本盤しかないものとかもずっと探し続けて買ってて。ちょっとマニアックなんですけど、デジタルで聴いて良かったらレコードやカセットも買って、三つのフォーマットでどの音がいいかを聴き比べたりもします。レコードでも7インチと12インチでは全然音が違うから、この音源は7インチで買っておきたいとかって。
―ちなみに一番初めて買ったレコードはなんでした?
認識としてはRaekwon(レイクォン)の「Ice Cream」。
―それは意外です!
俺は広島出身なんですけど、ラップを始めた当時、自分の周りにラッパーがいなくて、レコード屋に行ったらラップを教えてくれるんじゃないかっていう勝手な妄想から、まずレコード屋に行って、どうやったらラップができるのか店主に聞いたんです。そうしたら、Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)というクルーのRaekwonっていうラッパーがいて、「Ice Cream」って曲が最近出たと、レコードにはインストが入ってるから、そのインストに自分の言葉を乗せてラップしてみたらいいんじゃないかと言われて。
―それでやってみたんですか。難しかったですか?
それが結構書けたんですよね。その時はラップの韻も知らなかったから、とりあえず自分が言いたいことを書いてインストに乗せてラップっぽくやってみた。韻を踏むという縛りがなかったのが自由で良かったのかもしれない。
―そもそも、ラップとウッドベースはどっちが先だったんですか?
全然ラップが先です。その前にまずダンスから入ったんですよ。ヒップホップというカルチャーはずっと好きで、ダンスをやってみたいと思ってて、高校生の頃に地元のストリートでダンスを教えてる人たちに習って。その先輩達とクラブに行くようになって、そこでラップをしてる人たちを見て、自分もラッパーになりたいっていう思いが徐々に芽生えていった感じです。それで同じ高校に通ってた友達と一緒に2 MCとしてNAGAN SERVER(ナガン・サーバー)を組んで。何曲か作って、クラブでライブするようになって、そこから本気でラップで飯食っていこうと、その子と一緒に大阪に行きました。ですが、相方は半年でラップをやめました(笑)。自分は覚悟があったのでこの名前を背負って長年音楽やってます(笑)。
―そうしてラッパー人生が始まったわけですね。そこからどうやってウッドベースにたどり着いたんですか?
当時のヒップホップはジャズのサンプリングをした曲が多くて、その中で自分が一番影響を受けたのがRon Carter(ロン・カーター)と MC Solar(MCソラー)が一緒にやったやつで。Ron Carterがウッドベースを弾いて、Solarがラップするのを見て、これが自分がやりたかったことだ!って思って、ウッドベースのフォルムとかジャズをもっと掘り下げていって、毎日ジャズレコード屋さんに通ってディグるようになったんです。そうしたら今度は自分もジャズプレイヤーになりたい、ウッドベースを弾きながら歌ってみたいって思うようになって、ウッドベースを買って練習し始めて。二十歳の頃ですね。
―やってみてどうでした?
難しすぎて1年で挫折しました。ウッドベースはフレットレスなんで、まずどこに音があるかを知るのに時間がかかるし、ラップと一緒にやるのも難しいんでやめたんです。でもやっぱり諦めつかずにまた挑戦して今に至ります。
―誰かに習ったんですか?
1回目の時はジャズを教えてる人を調べてその人に習いましたけど、2回目の時は自己練習。自分が好きなヒップホップのフレーズや、GURU(グールー)の「Jazzmatazz」とかウッドベースの音が入ってる曲をひたすら練習しました。今回は絶対にやるって、1年後にはステージに立つと決めて必死で。
―それで1年後にステージに立った?
やりました。めちゃめちゃミスりましたけど。でもフリースタイルしたらできたんで、最初のステージでいきなりベースを弾きながらフリースタイルするという新境地に行ったっていう。窮地に立つと人って何かが出るんだなって思いましたね。
―では、これまで影響を受けてきたアーティストは?
NasとMiles Davis(マイルス・デイヴィス)ですね。ファッションもそうだし、生き方に最も影響を受けた二人。現行で言ったら、やっぱりKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)かな。彼がファーストアルバムを出した時、スタンダードというかスイングしてるジャズで思いっきり理想的なラップしてて、俺がずっとやりたかったことをやっていて。しかも第一線のRobert Glasper(ロバート・グラスパー)とかFlying Lotus(フライング・ロータス)とか、まさかラッパーと交わることはないだろうと思ってずっと聴いていたジャズの人たちとやって、彼らが混ざるとこんなになるのかっていう、ちょっと嫉妬もありながら、でもすごいかっこ良かった。
―日本にもかっこいいジャズプレイヤーはいますか?
ジャズミュージシャンはたくさんいますけど、ラッパーと絡んでる人は未だに少なくて。本当はすごい密であるはずなのに、意外と分かれてるんですよね。だから自分がジャズシーンとの架け橋になりたいって思いながらずっとやってます。
―SERVERさんのようにすごくいい音楽を作っていても、大衆的なサウンドじゃないが故に多くの人に届きにくいことってあると思いますけど、その辺はどう感じていますか?
それは昔からそうで、でもそれでいいと思ってます。どこかに合わせるよりかは自分がかっこいいと思うものをやらないと人に伝わらないから。一般的にはもうちょっとこうした方がいいんじゃないとかってこともあるかもしれないけど、そこで自分がしっくりこなかったら続かないし。あと、日本のマーケットだけを見てるわけではなくて、そもそも海外を意識してるんで。
―より多くの人に届いて欲しいです。では、インスピレーションはどんなことから得ることが多いですか?
やっぱりファッションとか音楽ですね。音楽は新しいのも古いのも聴きます。新しいのだと最近はSaba(サバ)とかEzra Collective(エズラ・コレクティヴ)とか聴いてる。他にも名前を上げ切れないぐらいカッコいい人が最近は出てますね。ネットもしくはレコード屋で試聴は常にどこかしらでしてます。
―レコード屋はどこに行くんですか?
大阪の「ニュートーン(NEWTONE RECORDS)」はずっと昔からお世話になっていて、よく行きます。東京はユニオンとかいろいろですけど、ブラジルものを掘るなら神保町の「Rubbergard Record(ラバーガード・レコード)」ですね。
―では、3/26にこちら(MARKET)で行われるライブについて教えてください。この日はHIMIトリオのベーシストとして参加するそうですね。
はい!レーベル(Asilis/アズリズ)メイトでもあるシンガーのHIMI(ヒミ)と一緒にトリオでライブ企画をやります。HIMIが歌って、俺はコーラスとベースに徹してたまにラップして、ドラムがSuyama Jackson(スヤマ・ジャクソン)」。これからライブをたくさんしていく中の一環としてここでイベントを企画させてもらう感じです。楽曲はHIMIのこれまでの曲と新曲をやります。
―「“トニカクGROOVE”をテーマに3人で音出しする」とありましたが、それはどういうことですか?
人間的にも音楽的にも、とにかくGROOVEするというテーマでずっとやって行こうって、それだけです。超シンプル。楽しい音楽で楽しいバイズスを届ける。 GROOVEって輪っかみたいに回っていくじゃないですか。巡り合わせというか、音楽でそれを揺らしたり、とにかくGROOVEしようと。
―アーティストとして今後成し遂げたいことや直近の目標は?
海外ツアー。これはもうずっと去年ぐらいから掲げてて、HIMIもヨーロッパツアーをしたいって言ってるんで、みんなで一緒に海外ツアーするのが直近の目標。特にUKですね。周りからもUKが合うんじゃない?って言われていて、自分はMassive Attack(マッシヴ・アタック)とか超好きなんですけど、UKの音楽ってダークな部分や実験的なものも大衆に評価されるから、自分の中でしっくりくる感じがあります。
ー―緒に音楽を作ってみたいと思うアーティストやプロデューサーはいますか?
誰かとしたいと思ってても、実際に会ってフィールするかしないかで変わるじゃないですか。だからすぐ思い浮かぶのは仲間。いわゆるグラミー取ってるようなアーティストとかよりかは、仲間が大好きだからみんなとずっと音楽を作りたい。例えばどんぐりずや、HIMI、自分のバンドNAGAN SERVER and DANCEMBLEのメンバーとも作り続けたいし。音楽家じゃなくても、仲間とやって広げていった方がワクワクするというか、より音楽が楽しめる。
―素敵です。では最後に、SERVERさんにとってヒップホップ とは?
自分そのもの、生き方ですね。
Special Thanks: MARKET
東京都八王子市子安町1-25-1 3B
営業時間:13:00-19:00
定休日:水曜日(不定休あり)
電話番号:090-4934-0822