ビートとファッションの融合:DJ Ross Oneの音楽旅とヴィンテージ ヒップホップコレクション
Interview & Photo: Atsuko Tanaka
現在ニューヨークとL Aを拠点に、世界で活躍するDJ Ross One。DJのスキルだけでなく、ヴィンテージラップTやラジカセなど、ヒップホップにまつわるアイテムのコレクターとしても知られている。2015年に自身が長年かけて集めたラップTの写真集「Rap Tees: A Collection of Hip-Hop T-Shirts 1980-1999」を発売し、8年越しに今秋待望のVol.2をリリース。展示とサイン会で来日した彼をキャッチし、これまでの人生や本にまつわることなどを聞いた。
―幼少期のことを教えてください。 どのような環境で育ちましたか?
オハイオ州シンシナティの郊外で育った。 ヒップホップへのアクセスは限られていたし、DJ へのアクセスもゼロだったよ。でも両親が素晴らしい音楽のセンスを持っていて、僕にはいつも創造的な取り組みや挑戦を喜んでさせてくれた。
―ヒップホップを聴き始めたのはいつ?虜になったきっかけの曲は何ですか?
ヒップホップを聴き始めたのは10歳か11歳の頃。すごく印象に残ってるグループは 、Public Enemy(パブリック・エナミー) と Digital Underground (デジタル・アンダーグラウンド)。 まだ子供だったから、Flavor Flav (フレイヴァー・フレイヴ)や Humpty Hump(ハンプティー・ハンプ) のようなラッパーに惹かれたんだろうね。きっかけは彼らだったけど、それからヒップホップにどんどんハマっていった。
―DJにはどうやって興味を持つように?
当時、僕が DJ にアクセスできたのはテレビと雑誌を通してのみだった。 多分同世代の人たちはみんなそうだと思うけど、映画「Juice(ジュース)」を観てDJにすごく興味を持って、ターンテーブルとミキサーを手に入れたいと思うようになった。
―それでDJになろうと思ったんですか?
高校時代はレコードを探したり、ずっと自分の部屋でDJしてる感じだった。大学に入ってから、いくつかのハウスパーティーや小さなバーでDJを始めた。でもギャラはレコードを数枚買えるくらいで、あまりお金にはならなかったね。 大学に入ってから、いくつかのハウスパーティーや小さなバーでDJするようになって。
―学生時代は、地元のレコード屋で働いていたそうですね。
そう、大学時代はずっとニューヨーク州のローチェスターにあるレコード屋で働いていたんだ。 給料の代わりにレコードをもらうなんてこともあったよ。 そうやって、いろんなジャンルの音楽、レーベル、アーティストとか、多くのことを学んで、レコードコレクションが増えていった。そのレコード屋で働くのは大好きだったし、今も良いレコードショップにいる時はいつも家に帰ってきた気分になる。
―ところで大学では写真を学んだとか。なぜ写真を選んだのですか?
僕は子供の頃からずっと写真に興味があってね。ローチェスターにたどり着いたのは、当時ニューヨーク州で一番の写真の学校 (Rochester Institute of Technology)があったからなんだ。 何人かの最高な写真家のもとで働いて、最終的にはニューヨークにある大学院に行って、写真の修士号を取得した。
―そうだったんですね!
もともとDJは、いろんなところに行って写真を撮るための、副業としてお金を稼ぐ手段だったんだ。大学院に通うためにニューヨークに移ってからは、多くのクラブやラウンジでDJをするようになったよ。
―YouTubeのプロモーションビデオ「Keep it Moving」についてお聞きしたいです。あれは 実体験をもとに作られたのでしょうか? キャリアを築くのに苦労されたんですか?
苦労したわけではないけど、大きなクラブのヘッドライナーを務めるようになるまで、何年もの練習と努力は必要だったね。「Keep it Moving」は、当時の DJ の世界にどうやって入っていくかを描いてる。ただレコードを回すだけなら全く関係のないこと。 僕は DJ の“ショーマンシップ”の要素を持ち合わせてなかったから。
―Ross Oneさんの名が知られるようになった転機は?
Mansion(マンション)や Prive(プライヴ)、Mokai(モカイ)とか、マイアミで人気のクラブでフルタイムのDJをしないかというオファーが来て、向こうに引っ越した。 それから知名度が上がっていって、いろんな他の都市にも呼ばれるようになった。
―さまざまな国でDJをされてきましたが、お気に入りの都市や場所はありますか?
もちろん日本が大好きだよ、東京とか京都とか。 ラッキーなことにこれまで世界中で DJ をしてきたけれど、今までで最高の夜のいくつかは、当時拠点にしていたニューヨークとマイアミかな。
―あなたのようにDJとして成功するために、これからDJを始める人たちにアドバイスをください。
今と昔の DJの世界はまったく違うけれど、やはりいろんなところに出かけることは大事だね。たくさんの DJ を聴きに行って、何が人々にウケて何がウケないのかを考えて、そのエネルギーを参考に自分のスタイルを見つけていってほしい。
―では、今年リリースした写真集「Rap Tees(ラップ・ティーズ)Vol.2」についてお聞かせください。Vol.1を2005年に出されていますが、そもそもこの本のアイデアは、どのようにして思いついたのですか?
僕のTシャツコレクションが膨大になりすぎて、何かしないとって思ってたんだ。 最初は単なる自分のコレクションの記録として始まったけど、すぐに他のコレクターも参加することになった。
―膨大な量をまとめるのはとても大変だったと思いますが、本を作る過程で苦労したこと、逆に楽しかったことは何ですか?
やらないといけないことがたくさんあって、ものすごく時間がかかる。 かかった時間を考えると、好きなことだからできたんだと思うよ。でも、他の人のコレクションを見るのはいつも楽しい。あと、タフなシャツを頑張って見つけたり、ヒップホップファンやコレクターからの反応が得られるのも嬉しい。
―選ぶのは難しいとは思いますが、最も思い出に残るもの、もしくは最も意味のあるTシャツを選ぶとしたら、何になりますか?
選べないね。 色々考えたけど、常に変わるし。
―Ross OneさんにとってラップTの最大の魅力は?
どれもとても特別なアイテムなんだ。 中には信じられないほど珍しいものもあって、ほとんどのものは時とともに捨てられたり消えていった。 特に希少なT シャツなんて、世界中に 5 枚も残っていないんじゃないかと感じることがある。
―なぜ人は物を集めることに惹かれるんだと思いますか?
多くの場合、子供の頃に欲しくても買えなかったからなんじゃないかな。一方で、一部の人にとってはお金や投資のためだったりもする。 僕は、お気に入りのアーティストを着て彼らをレペゼンしたいと考えている、リアルなファンやコレクターが好きだな。そもそも、それが音楽 T シャツが存在する理由だし。
―確かに。今Tシャツは何枚持っているんですか?これからも 買い続けますか?
Tシャツの枚数は数えてないけど、たくさんあるよ。これからも自分のコレクションにないものは買う。コレクター愛が無くなることはないね。
―では話を変えて、現在取り組んでいる新しいプロジェクトがあれば教えてください。
本のプロジェクトがいくつかある。完成までに、数か月、数年、あるいは何年もかかるかもしれない。
―最近はどんな音楽をよく聴きますか? 好きなアーティストや曲はありますか?
大体いつも同じロックを聴いてるね。 Oasis(オアシス)、Smiths(スミス)、The Cure(ザ・キュア)とか。あと最近はRakim(ラキム)もよく聴く。 でも、新しいものも毎日チェックしてるよ。
―ここ数年のヒップホップシーンの変化についてはどう思いますか?
すべては変わっていく。 何年か経って振り返ってみないと、どう思うかはわからないな。
―あなたのDJスタイルを一言で表すとしたら?
一貫性。
―尊敬するDJはいますか?
たくさんいるよ!友達の、Eli Escobar(イーライ・エスコバル)、Crooked(クルックド)、Moma(モマ)、それからRiz(リズ)やKid Capri(キッド・カプリ)も。
―今世界で何が起こっていることについてはどう思いますか?
良くないね。
―将来のご自身をどう見ていますか? 達成したい目標や将来の計画はありますか?
地道にやり続けて、新たなチャンスが来た時に用意できてるようにしたいね。あとは、もっと本が出せるといいな。
―最後に、Ross Oneさんにとってヒップホップとは何ですか?
多分、僕が人生でやってることが物語ってるんじゃないかな。間違いなくヒップホップのおかげで今のキャリアがある。これからもヒップホップと DJ の歴史をリスペクトして、未来に残していくために自分のベストを尽くすよ。