二つ以上の国にルーツを持つ人々をフィーチャーするコーナー「Ethnic Mosaic」。第2回目は、アメリカ人の父と日本人の母の間で生まれ育ち、現在はシンガーとして活躍するKona Rose。日本でミックスとして育って感じてきたことや、学生時代の体験、アーティストとして大切にしている世界観などを聞いた。

Text & Photo: Atsuko Tanaka

Kona Rose

―小さい頃は海外のいろんな都市で育って、4歳の時に日本に来たとお聞きしてます。当時のことは覚えてますか?

ニューヨークのマンハッタンで生まれて、ブルックリンで育ちました。911があった時は私の幼稚園がツインタワーのすぐ近くにあったので、大事件というか大きなことが起きたというのは記憶にあります。その後、父が亡くなったのをきっかけに叔母が住んでるパリに引っ越して1年半くらい住んで、それから父の実家があるLAに移りました。でも、母は私にとっても日本で暮らす方が良いと思ったみたいで、日本に引っ越すことになりました。

―初めての日本はどうでしたか?

自分だけ他の人と違うっていうのはいつも感じていましたね。母は国際的な人ではあったけれど、日本に来てからは母サイドの家族と一緒に過ごすようになって、親戚に私の肌に対するニックネームをつけられたり、その時は差別用語と思ってなかったけど、大人になって気づくことはありました。家族がいなかったら今の人生になってないですし、もちろん感謝はしていますけど、自分が他と違うとか、居場所を問うようになったきっかけは家族でした。

 

―お母さまは有名なダンサーだったんですよね。

はい、ダンサーとして世界で活躍した人で、マイケル・ジャクソンやプリンスとかのバックダンサーを務めたり、ソウルトレインアワーズに出たりして、帰国後は劇団四季で教えてました。父が亡くなったショックと向き合いながらも、私を幸せにするために出来ることを精一杯やってくれたと思います。アートに対しての本質、例えば練習や基礎の大切さとか、パフォーマンスする場だったりを教えてくれたり、私のことをずっとサポートしてくれました。

―お父さまはどんな方だったとか、思い出は何かありますか?

父は音楽と映像のプロデューサーで、映画「New Jack City」などをプロデュースしたあと、モータウンの社長になって、その1年後に亡くなりました。私はまだ小さかったので特にこれという思い出はないですけど、ビデオに残っているのでたまに見返します。あと、存在の大きさっていうのかな、フィーリングで感じることはあります。

 

―では、Konaさんの子供の頃のことを教えてください。どんな子で、どんなことが好きでしたか?

踊りと歌は歩く前くらいからずっと好きで、母曰く、瞑想するように踊ってたらしいです。3、4歳の頃からピアノ、歌、ダンスを習い始めて、その頃ジャネットがよく流れていて、彼女のMVを見て「これだ!」って思いました。それからはずっと歌手になるのが夢でした。

 

―ところで、当時の日本は今みたいに国際的な考え方を持ってる人は少なかったと思いますけど、Konaさんの周りにミックスの人たちはいましたか?

いなかったですね。幼稚園の時、アフリカから来た女の子がいたのと、私の母が経営していたダンススクールに通っていたブラックとのハーフの子がいたくらいで、小学校にはいなかったです。中学はインターに通いましたけど、そこにもブラックとのハーフの子は全くいませんでした。今になって出てきてるから、みんなどこにいたの?って感じですけど(笑)。

―インターでもいないというのは意外ですね。

あと思うのは、同じハーフでも、男子のハーフの子達は大体運動神経が良かったりしてプラスに捉えられるというかリスペクトされることが多いと思うんですけど、女子は外見を見られることが多くて。当時いいと思われていたのはブラック系ではなかったから、いつもストレートパーマをかけたり、体型も嫌だったし、ちょっといじめもあったりして辛い時期もありました。でもポジティブ思考なんで、とにかくハッピーでいられるように向き合ってました。

 

―中高生の頃は、音楽面ではどんな活動をしていったんですか?

学校でラジオ番組を作ろうってなって、友達とポッドキャスト的なことをやったり、学校の近くにあるカラオケにひたすら行ってました。その時から歌詞を書いたり、カバー曲を歌ったりして、16歳頃からジャズのパフォーマンスに呼ばれるようになって、目黒のブルースアレイとかいろんな所で歌うようになりました。その後LAに移ってからは、学校のフットボールやバスケの試合で国家を歌ったりして、ガールズグループに入るとか、アメリカンアイドルに出る出ないみたいな話もあったけど、コマーシャル的なものは違うと思っていたのでそっちの方向には進まず、自分が大切にしている表現とかメッセージを探るプロセスに集中しました。

―表現を探るというのは、お母さんの教えですか?

自分の中にあるものだと思います。一人っ子だからなのか、自分の世界をモノにしたいっていうのがずっとあって。頑固だけなのかもしれないですけど。

 

―ちなみにLAに行こうと思ったきっかけは?

311が起こって母が心配してたのと、私が東京が本当に嫌になってしまって。「自分らしさって何?」みたいなことをいつも考えていて、東京は居心地が悪いからアメリカに行きたいってずっと言い続けた結果、じゃあ引っ越そうってなったんです。

 

―行ってみてどうでした?

映画のハイスクールミュージカルで見るような学校ではなく、地味というかリアルというか、でもいろんな人種の子たちが集まっていたんで面白かったです。それに私が通ってた東京のインターは小さくて、自分のクラスが11人しかいなかったのに比べると、すごく大きい学校だったので、その環境の違いはインパクト強かったですね。パフォーマンススクールだったのもあって、みんなとにかく表現力すごいみたいな。

―確かにすごそうですね。そういう環境にはすぐに馴染めるものですか?

多分あまり考えてなかったのもあって、すぐに馴染めてたと思います。みんなも結構受け入れてくれたし。ミックスの子はたくさんいたから、見た目的にはあまりクエスチョンされないですけど、私の動き方とか反応の仕方で、ちょっと違うと思ったみたいで「どこから来たの?」って言われることはありました。

 

―今は日本と言うとすごい興味を持つ人が多いかと思いますが、当時はどうでした?日本から来たって言ったらみんなの反応は?

「日本?すごいね!」とかっていうのはあったけど、「こにちわ」、「ありがとう」、「スシ」とか、「Do you speak Chinese?」って言われることも(笑)。当時はそんな程度でした。

 

―高校卒業後はどうされたんですか?

バークレーに申請したけど通らなくて、NYUでソングライティングとパフォーマンスのサマーコースを受けたり、ロンドンのミュージックスクールで短期の音楽プロダクションを学んだり、あとはLAでバイトしながら作曲とダンスをやってました。

―日本にはいつ帰国されたんですか?

コロナの時に一旦帰ってきました。それ以前も年に1度は帰ってきてたんですけど、本格的に帰ってこようと思ったのは去年です。友達のライブに行ったりした時にプロデューサーに会うようになって、日本悪くないじゃん!って思って。今なら私がやりたいこととか、向こうで探ってたブレンドができるかもしれないと思ったんです。

 

―ブレンドとは?

日本語でリリックを書いて、日本らしいサウンドも含めながら世界的な音楽の表現をミックスするという、世界観のブレンドですね。それで、もうちょっと日本にいようかなと思ってたら、ライブの声がかかったり、テレビの主題歌のオファーが来たりして、チャンスがあるなら私のホームでもあるしトライしてみようと思って。小さい頃のトラウマがあるから、最初は日本に3ヶ月以上いるのは嫌でしたけど、今は本当に最高だと思います。日本の文化ってなんて素晴らしいんだろうって大好きになって、背中に「君が代」の歌詞のタトゥーも入れました。

 

―それは珍しい!帰ってきて1年半ほど経ちましたが、活動含めてどうですか?

去年はまだ日本の環境的なもどかしさとか居心地の不安定な感じがあったし、レーベルに入らずにマネージメントも無しで一人でやってきてるんで、大変と思うことはありましたけど、どんどんいい方向に行ってると思いますし、これからが楽しみです。

―昨日新しいEPをリリースされましたが、テーマやコンセプトなどについて教えてください。

タイトルが「Matsuri」なんですけど、それは私の今までの経験や、他人の視線とか自分の中に受け入れてしまっていた固定概念からの解放を祝う意味を込めてそうしました。6曲のうちの4曲が新曲で、日本語と英語両方で歌ってます。エンパワーメント中心で、いろんな感情からの解放がベースにあります。

 

―制作を進める中で新たな気づきなどはありましたか?

「Yada Yada」っていうLAで作った曲があるんですけど、歌詞を書くプロセスの中で気づいたことがあります。「Yada Yada」って英語では“ああだこうだ”というような意味なんですけど、日本語でも「嫌だ」という意味で通じることに後々気づいて、意味もマッチしているし、私のルーツって避けられないし離れられないものなんだって思いました。自分のハーフとしての旅を受け入れるプロジェクトをこういう形で作れて良かったなと思います。

―どんな人に聴いて欲しいですか?

特にどういう人っていうのはないですけど、音楽好きな人はもちろん、これを聴いて自分も頑張ろうって勇気とパワーを受け取ってもらえたら嬉しいです。ここ3、4年溜めてきたものをやっと出せるのは楽しみですね。

―数年溜めていたものもあるんですね!今の時代ってみんな作ったらすぐ出すって感じですけど、出したくはならないんですか?

ノイズが多いからこそ慎重になっちゃうんですよ。それと意味をすごく大事にするんで、「なぜ今これを出すべきなのか」って考えちゃう。だから曲もMVも、作ってる段階のものを人に見せることはほぼないですね。他の人の意見だったりが入ってしまうと、自分の世界じゃなくなってしまって、言葉一つだけでも世界観が揺れたりするから、センシティブにシェアするタイミングを考えます。でも去年の夏頃からアートに対する理解が深まって、意味とかって関係ないかなとも思えるようにもなったので、これからは出したいと思ったら出せばいいし、直感を大事にしたいとも思ってます。

 

―結構考える人なんですね。

そうなんですよ。大変です、頭の中(笑)。今年は考える量を減らすのが目標かな。昔は考えてなかったけど、16歳頃からスピリチュアル系の世界の見方に開眼してから、考えるようになっちゃった。

 

―スピリチュアルの世界にはどうやって興味を持ったんですか?

アメリカにいた時にメディテーションに出会ってからですね。あとはErykah Badu(エリカ・バドゥ)とかLauryn Hill(ローリン・ヒル)とかのリリックを聴くようになって、意識的でいることの大切さとか、見てきたものや信じてきたものをクエスチョンするようになって。直感するのは大事だけど、その直感って素の自分の直感なのか、洗脳された自分のいいと思ってる直感なのかとか、整理整頓して脳内をクリーニングするのって大事だなって思ったり。

―メディテーションは今でもする?

してます、ほぼ毎日。もっとやらないといけないと思ってるけど、常にメディテーションという言葉は頭にあって、気をつけてますね。私は音を立てる人だから、自分の中のノイズを一旦抑えないと鳴らしたい音とか響きとかが出せないから。

 

ー曲作りにおいて大切にしていることはありますか?

人間関係とか人生のシチュエーションでもそうですけど、白か黒かとか、これ!って決めつけるような考え方はあまりしないようにしてるかな。常にいろんな可能性を頭の中に入れておくと、アートが生きるスペースが生まれるというか。わからないけど行ってみたら違うところに辿り着くかもしれないので、多方面へのアプローチは大切にしてます。

 

―今後挑戦したいことや夢を教えてください。

ツアーを回るのと、またアルバムも作りたい。あと、ベースを弾けるようになりたいです。今まではいろんな所を行ったり来たりしてたので難しかったけど、今年からは日本にいる期間が長くなるので、集中して覚えたいと思ってます。

―最近はどんな音楽を聴いてますか?

アンビエントが多いかな。あとクラシックやジャズとか、歌詞がない音楽がほとんどです。メインストリーム系の音楽はノイズに感じちゃうから、自分の心臓の音が聞こえるくらいの音楽。アンビエントだと、最近はAndre 3000(アンドレ3000)、スピリチュアルジャズのAlice Cortlane(アリス・コルトレーン)、ロイ・ハーグローヴ(Roy Hargroove)とか。いろんなカルチャーをベースにした音楽が好きなので、私自身もこれから作っていくものはいろんな要素を加えていきたいです。

―今までKonaさんの曲はポップ寄りなものが多いイメージでしたけど、これから変わっていくということですか?

そうですね。以前はその時の自分が好きで聴いてるような曲を作りたいと思っていたけど、これからは何に自分が動かされるかを大事にしていきたいと思ってます。そう思うようになったのは去年の夏頃、メジャーレーベルとの話があったけどなくなってすごいショックを受けて、何がいけないんだろうって色々考えた時に、憧れに寄せてた自分がいるのに気づいて。それではなりたいアーティストになれないと思い直して、最近は聴く音楽を制限して、自分の音を探ってます。

 

―それは楽しみです!

今回出すのは前のチャプターの自分。今まで作った曲でリリースしていないものもあるんで、それをもうちょっと出して次に入ろうかなと思ってますけど、わからないです。アーティストって生きてる間に何度も生まれ変わりを繰り返すと思うから、3ヶ月後には全然違うところに辿り着くかもしれないし、そのプロセスを受け入れることによって、いつもフレッシュな状態でアートに向き合えると思ってます。



EP “

MATSURI”

Track List

 1. Cuz I said so

2. Kakehiki

3. Like Whaaaaaat

4. Yada Yada

5. Chotto Mattene (Ft. Jean Placide)

6. Dumbshit

https://konarose.lnk.to/matsuri