一二三屋
開店: 2005年4月20日
業種: HIP HOP
地区: 大阪アメリカ村
オーナーのモットー: 踏む
Text & Photo: Atsuko Tanaka
大阪のアメリカ村にあるヒップホップの名店、一二三屋。2005年にオープンし、3度の移転を経て現在の場所に。グラフィティとステッカーまみれのエレベーターに乗って4階へ。中には、そこまで来て店に入る勇気を持てずに帰ってしまう客もいるそうだ。しかし一歩足を踏み入れれば、フレンドリーで楽しいスタッフが迎え入れてくれる。
オーナーは韻踏組合のHIDADDY。彼は若かりし頃、ひょんなことからアメリカ村のイスラエル人が経営するアクセサリー屋で働くことになる。その約7年後、身になる仕事をしようと思っていた矢先に、ラッパーとしての活動も支援してくれるサタンアルバイトの社長から声をかけられ働くことになった。その後、独立し一二三屋をスタートすることになる。
―店をオープンしたきっかけについて教えてください。
昔働いていたサタンアルバイトの社長に、ある時全部あげるから自分で場所を借りてやってくれって言われて、急なことでしたが、(韻踏の)遊戯に手伝ってもらって店をオープンしました。ちなみに店名の一二三屋は、友達でライターのCASPERがつけてくれたもの。韻踏の「揃い踏み」という曲の歌詞に「数えろ 一二三 俺らが韻踏合組合」というのがあって、僕がやる店なら一二三屋しかないやろってことで。ロゴも作ってくれて、そのロゴのタトゥーを自分の足に入れました。
―店のコンセプトは?
ラッパーの、ラッパーによるラッパーの為の店。店をオープンした頃はダンスとかレゲエブームの時代で、ヒップホップ はまだ流行ってなかったから、ラッパーが行く店がなかったんですよ。僕はそもそもラッパーだし、ラッパーが来れるような店をやろうと思いました。
―店員は皆さんラッパーですが、ラッパーであることが条件ですか?
条件ではないです。でも、ラッパーとして活動していく上で一二三屋の仕事はしやすいと思います。それに、そもそもヒップホップが好きじゃないとお店の商品の説明もできないし、自然とそうなっていった感じですね。
―店ではサイファーも行われるそうですが、自然発生で起こるんですか?それとも事前に告知して人を集めてやるんですか?
今の若いラッパーの子たちって、サイファーをやってる所に行くみたいな考え方をしてる人が多いと思うんですけど、僕はサイファーは自然に巻き起こるもんだと思ってて。できる・できないとかじゃなくて、やりたいんだったら巻き起こしてみ、お前のラップがカッコ良かったら、ここにいる全員がアンサーするぜって感じなんですよね。なので、大体は自然発生です。この前は10人くらいの大所帯で、4時間くらい、朝の4時までやってました。レゲエのアーティストとか、飲み屋の社長とか、いろんな人が出たり入ったりして。そんなのは日常茶飯事。ライフスタイルっすね。
―この店の自慢ポイントは?
スタッフです。僕たちは特別なアイテムを作ってるわけでも、特別な生地を使ってるわけでもないんで、付加価値をつけるとしたら、デザインもそうだけど、そのデザインをしてる僕たちなんですね。お客さんはみんな、僕たちの音楽や活動を応援する気持ちで一二三屋の服を着てくれてるから、そういう意味ではフェラーリの本質と似てるなと思ってます。フェラーリって、今ではセレブや金持ちが乗る高級車というイメージがありますが、もともとはフェラーリのF1チームのサポーターたちがチームを応援する意味で乗ってた車らしいんですよ。一二三屋もそうでありたいと思います。
―素敵ですね。店の売れ筋アイテムは何になりますか?
最近はタバコシリーズですね。前作はアメスピ、今回はハイライトです。あと、花札シリーズも人気です。前に花札のMA-1を作った時は爆発的に売れました。タカくん(WILYWNKA)が店長をしてた頃、MA-1のボディにデザインするのに何かいいアイデアがないか彼に聞いたら、一言「花札」って言われて。それでデザイナーの子と相談して、花札の絵柄をサンプリングして、一二三屋のデザインを混ぜ込んで作ったんです。それがすごいヒットしたので、慰安旅行でタカくんのお父さんがやってる旅館にみんなでスキーしに行きました。
―この店の特徴でもある指スケートのランプについてお聞きしたいです。どんな経緯で作ることになったんですか?
指スケのデッキは店のオープン当初から扱っていて、そのうち指スケの文化がヨーロッパですごく進化していることを知って、このドイツ製のランプを購入しました。でもデカすぎて、これを置くと店の大半が埋まっちゃうのと、みんな周りで遊び始めて他のお客さんの邪魔になってしまうので、大体は壁に立てかけてます。ちょうどぴったりハマる大きさで良かったです(笑)。
―今までに店で起きた出来事で、一番面白かった出来事は?
うちの店にはラップの体験ができる裏メニューがあって、それを購入いただいたお客さんは、僕がヒアリングして書いたリリックをラップして、それを試着室でレコーディングできるシステムになってるんです。昔、ある中学生の男の子とお父さんが店に来て、たくさん買い物をしてくれた後に曲を作ることになりました。その時お父さんが僕にぼそっと、「うちの息子、不登校なんでお願いします」と言ってきたので、僕なりにその子に勉強や学校の大切さを教えて、ここに連れてきてくれたお父さんに感謝の気持ちを込めた曲を作ろうって言って作ったんです。そうしたら半年後、またその親子が来て、不登校だったその子が学校に行くようになり、スケボーやラップを始めて、公園でサイファーもやっていると感謝を伝えに来てくれました。彼が立ち直ったのを祝って、今度は親子で一緒に曲を作ろうってなってまた作ったんですよ。とても嬉しい出来事でした。
―感動的な話ですね!では、店付近のエリアについて教えてください。
ラップをやりにアメリカ村に来るやつは、学校をドロップアウトしたやつとか、世間的に見ると社会のはみ出し者だったりすることが多いんで、そういう意味ではクズどもが集まる街と言えるかもしれない。でも、僕はこの街が大好きですし、ここにヒップホップを感じてます。
―今度、初めて店を訪ねてみようと思っているお客さんにメッセージをお願いします。
ビルも落書きだらけだし、イメージが怖くて入りづらいってよく言われるんですけど、扉を開ければピースフルでハートフルな空間になってますので、見かけで判断をせず、是非来て声をかけてください。でも、たまに勝手に写真を撮ったり、写真だけ撮って帰る人がいるんで、そういうのはやめて欲しいです。お金がないなら何も買わなくてもいいけど、写真を撮る時は一言言ってくださいね。
一二三屋
Address: 大阪市中央区西心斎橋1-8-16 中西ビル4F
Phone: 06-6245-4646
営業時間: 12:38〜20:00 年中無休
Website: https://www.hifumiya.com/
Instagram: @hifumiya