IITIGHT MUSIC

開店: 2009年

業種: レコード/テープ/CDショップ

地区: 東京・町田

オーナーのモットー: WE DELIVER GOOD TIME

Text & Photo: Atsuko Tanaka

アメリカ各地のローカルに根付いたギャングスタラップやG-ファンクを扱うショップ「IITIGHT MUSIC(ツー タイト ミュージック)」。店の扉を開けた瞬間、ぎっしりと並べられたレアなテープやCD、レコードの圧倒的な量に息をのむ。これまでに扱った枚数は70万枚以上と聞いて、店主の気合いが伝わってくる。この店を切り盛りするのは、横浜生まれのShu。ヒップホップとの出会いは中学2年生の時だった。地元の公民館で先輩が聴いていたN.W.Aやパブリック・エナミーに衝撃を受け、その後ブレイクダンスにのめり込む。バトルでは優勝を重ね、「いつかアメリカに行く」と心に決める。

そして1997年、幼馴染を頼りにコロラドへ初渡米。現地のダンサーたちのスキルに圧倒されながらもダンスを続けたが、怪我や業界の現実を知るにつれ、次第にレコードディグへとシフトしていった。仕事で稼いだ金をすべてレコードに費やす日々。「それなら、直接アメリカに買いに行ったほうが早い」と、2001年から頻繁に買い付けのため渡米するように。その回数は100回以上にのぼり、今もなお未開のローカルラップを探し続けている。

―若い頃はだいぶダンスに夢中だったそうですが、どうして音楽の方にシフトしていったんですか?

97年にコロラドと、2000年にロスに行って、すげえダンサーがいるんだってめちゃ衝撃を受けて、帰国後も仕事しながらダンスを続けてバトルでも優勝したりしてたんですけど、怪我が多いのに勝っても賞金が出なかったり、なかなかスポットライが当たらなかったりで、自分の生き方を見つめ直す機会があって。このまま続けていくのは難しいなと思って、それまでも好きで聴いてた音楽をディグる方にシフトしていったんです。毎月仕事で稼いだ3、40万を全部つぎ込んでたんで、それならアメリカに行ったほうが早いじゃん!って、2001年からアメリカに買い付けに行くようになりました。

 

―それで、向こうで買ったレコードやCDを日本で売るようになったんですか?

はい。公園のフリマとかで売ったりもしたけど、基本は横浜近辺のファミレスの駐車場で、そういうのが好きそうな友達に連絡して、売ったりしてました。

 

―このお店をオープンしたのは2009年とのことですが、それまではずっとそんな感じで動いていた?

そうですね。2007年にオンラインショップを始めたんですが、いつもチェックしてくれるお客さんたちに直接会ってお礼を言ったり、アメリカで自分が見たことや体験したことを話したいって思いが強くなって、2009年に今はスタジオとして使ってる、この店の隣のスペースを借りて始めました。

―お店をオープンしてどうでしたか?

いろんな人、例えば今日来てくれてるお客さんもオープン当初から来てくれてる方ですけど、会えば色々話ができるじゃないですか。それは自分の人生にとってすごく重要なことだと思ってます。テキストでやり取りするのとか効率はいいかもしんないすけど、バイブスが下がるっていうか、火が消えてくっていうか。「もっと言いたいこといっぱいあんだよな」って。

 

―店のコンセプトは?

昔、アメリカ各地のフッドにあった黒人さん家族経営のCDショップ。今はもうなくなってしまった店も中にあるけど、例えば店に貼ってるポスターが何年後かには破けてたりして、そこに地元の人たちが音楽を探しに来て、ビール飲んだりワイワイやってたりする。そういうのって狙ってやってるわけじゃなくて、自然とその形が出来上がっていったと思うけど、かっこいいんですよね。とにかく“ダシ“が効きまくってる感じというか。そういう店をやってる人たちを見てきて、イケてるからとか流行ってるから物を扱うとかじゃなくて、店をやってるやつが「こいつダシ効いちゃってるな」みたいな人間にならないとしょうがないんだなって思って。

 

―ダシ、最高です!では、この店の人気アイテムを教えてください。

ギャングスタラップやG-ファンク。よくおすすめを聞かれるんですけど、むずいですね。ラーメンで例えると、この人は塩ラーメンが好きなのか、味噌ラーメンが好きなのかとかを考えて、その人の好みに合ったものをおすすめする感じなんで。

ー思い入れのある作品を2枚挙げてくださいと言ったら?

1枚は、ルイジアナ州北部にあるシュリポートという町出身のグループ、NHCのアルバム「Respect The Game - Boot Life」。彼らの音楽を見つけるために、2007年にシュリポートに行きました。訪れた先のレコ屋に彼らのポスターが貼ってあったので、自分の宿泊先を彼らに伝えてほしいと店員さんに伝えたら、夜にNHCのみんながCDをたくさん持って来てくれて。日本に呼びたくて今も連絡取り合ってるんですけど、数年前に一番日本に来たがってたメンバーが銃殺されてしまいました。でも彼らの音楽は本当に最高なので、残ってるメンバーでいつかライブを日本で開催したいと思ってます。

もう1枚は、カリフォルニア州コンプトンの女性ラッパー、GANGSTA LIFEの「GANGSTA LIFE」ですかね。元ギャングメンバーでかなりハードな人生を送ってきた人ですが、作品は評価が高く、中古個人オークションなどで約2000ドルで落札されたりしています。中古市場はアーティストに還元されないので、サポートしたいと思って、「再販に興味があれば今すぐ還元する」と伝えて、一緒に再販して広めていくことになりました。その時、「あなたが自分の作品をどう思っているかはわからないけど、僕がこうして君に会えたのは、作品がアートとして素晴らしいことの証明だと思う」と伝えたら、涙を流して喜んでくれました。

―ところでアメリカで買い付けの際は、いつもレンタカーを借りて一人で国を横断してるそうですが、楽しい反面大変じゃないですか?危ない目に遭ったことなどはないですか?

大変なんすけど、目に映るものがそれまで見たことないものばっかで、いろんなことを知れるんで、疲れを超える興奮があるし、すごいありがたいことだなと思ってます。とは言え、LAの元ギャングだった人たちにも行っちゃダメって言われるような所とかも行きまくるし、他の人からしたら危ない目に遭ってるかもしれないのは事実。だけど、芸術ってリスクしょってる人の方がすげえものを作ったりするじゃないですか。音楽をただネットで仕入れて売るとかも出来るけど、自分が直接足を運ぶことで、現地で見たことや感じたことを日本のお客さんに伝えられるし、少しでもそういう世界に興味持ってもらうことが大事だと感じてます。

―では、今までに店で起きた出来事で、一番印象的な出来事を教えてください。

やっぱりお客さんの存在ですね。時間を割いてわざわざ店に来てくれることは何よりもありがたいです。俺が風呂敷広げてんのに、逆に感動をもらってるという。あとは、自分が企画したアメリカのアーティストが来日した時に、店の隣のスタジオで楽曲制作したり、色んな昔の商品を見せて興奮してくれる姿を見れるのは嬉しいです。

―アーティストの招致はどうやって始まったのですか?

向こうでアーティストと会って話してると、「俺も日本連れてけ」ってなるじゃないすか。そういうのを繰り返してるうちにやりたくなって。ここに置いてる音楽って、彼らの魂で、それを好きそうな人にお届けするのが自分の役目なわけですけど、その相思相愛の2人を会わせるみたいな、それって自分自身もすごく興奮するし、究極なのかなって思ってます。

 

―今までの招致で思い出深いことや嬉しかったことは?

これまで何万回と聴いてきたアーティストが、自分企画のイベントに来てくれること自体が毎回感動だし、その人がステージに立ってお客さんがワーッとなるのを見るのはしびれますね。特に印象深いのは、一番最初に呼んだBattlecat(バトルキャット)っていう、スヌープとかのプロデュースをしたり、西海岸のクラシックを作ってる人が来た時。彼はラジオDJもやってるんですけど日本ではあまり知られてなくて、DJとして来て、彼が作ったクラシックをかけるイベントをやろうって提案したらいいねって言ってくれて。本当にちゃんと来てくれるか心配で寝れなかったりしたけど、ちゃんと来てくれて、イベントでは感動して泣いてるお客さんもいて、それを見て俺も泣くみたいな。イベントが終わった後、彼とホテルで話した時に、「お前は本当に音楽が好きなんだな」って言ってくれたのをすごく覚えてます。自分のことを包み隠さず体当たりしてやってると、そのぐらいアツいことが返ってくるんだなって実感した出来事でした。

―素敵ですね!Shuさんのような店を持ちたいとか、アーティストの招致などをやってみたいと思う人にアドバイスをするとしたらどんなことを言いますか?

自分の気持ちに向き合うことですかね。やりたくても仕事が忙しくてできないとかもあるとは思うんですけど、いきなりガラッと仕事を変えるとかじゃなくても、一歩踏み出すぐらいの感じで、いつもより2時間早く起きてやりたいことをやってみるとかしたら、そのうち広がっていくかもしれないし、まずは自分の気持ちに素直になることが大事だと思います。

  

―これからの展望、新たに挑戦してみたいことを教えてください。

去年Cartoonさんの自転車の輸入販売に関わらせてもらったんですけど、これからはそういう自転車販売にもっと携わっていきたいと思ってます。あと、これまで20年以上横浜のTHE BRIDGEっていうクラブでイベントをやってきて、去年末にクローズしてしまったので、これからは昼間の時間帯に屋外で、車とか自転車とか、反骨アートみたいなものを集めて、音楽いっぱい流して、平和で健康的なイベントをやりたいです。

それともう一つ、これまで向こうで自分がゲットしてきたフライヤーやステッカー、ポスターとかって、自分からすると文化遺産レベルのものだと思ってるんです。もちろん素晴らしい出来のA級のアートとかもかっこいいけど、俺はそれよりB、C、D級とかの方が共感できるところがあって。そういうのを作る人たちって、物の売り方を知らないから売ろうともしてなかったり、作品には人間ぽさが伝わる粗さがあったりで、めちゃくちゃかっこいいと思うんです。アメリカに残ってるそういうものを全部買いたいくらい。それで例えば小田原の山辺りで巨大な倉庫を借りて、田舎バージョンのポップアップをやるみたいな、そんなことができたらいいなと思ってます。

―迫力ある展示になりそうですね!早く実現させてほしいです。では、店付近のエリアはどんなところについて教えてください。

JR町田駅から徒歩2分ですが、昔は色々な事務所があったり、夜は多国籍の立ちんぼだらけの風俗エリアでした。今は平和です。

 

―最後に、今度初めてこの店を訪ねてみようと思っているお客さんにメッセージをお願いします。

これでもかとアメリカを回って、文化遺産を守るべくレコード、CD、テープをかき集めてます。是非お気軽にお立ち寄りください。

IITIGHT MUSIC

Addres: 神奈川県相模原市南区上鶴間本町3-10-7町田ニチジュンビル402

Phone: (042)705-4057

営業時間:13:00―21:00  定休日:木曜日

Website: https://www.2tight.jp/

Instagram: @mcd