クジラ商店
開店: 2014年3月
業種: 居酒屋
地区: 八王子
オーナーのモットー: 自分のお金は自分で稼げ
Text & Photo: Atsuko Tanaka
八王子の商店街の一角に佇む居酒屋「クジラ商店」。オーナーはB ボーイでもある殿岡。高3まで野球に明け暮れた毎日を過ごしていた殿岡がブレイクダンスを知ったのは、深夜のテレビダンス番組「RAVE」だった。興味を持ち、すぐに幼なじみと一緒に家の前のコンクリで練習を始める。ダンスや音楽だけでなく、ファッションやアティチュードなど含め、ヒップホップカルチャーに魅了され、どっぷりとハマっていった。
高校を卒業後は日本大学に進学し、経済学を学んだ。大学在学中の1999年、八王子で初のストリートダンスチーム「8 North Gate」を立ち上げ、数多くのバトルに出場。2011年には日本最大のストリートダンスコンテスト「B-BOY PARK」で優勝を果たした。
ダンサーとしての活躍以外にも、2008年にダンススタジオ「SHAKE DANCE STUDIO」を設立し、生徒数が1000人を超える西東京最大規模のダンススクールに成長させたり、2015年にはデザイン・プリント事務所「West Monkey Creation」を構えるなど、ビジネスマンとしても腕力を発揮している。そんな殿岡が2014年にオープンしたクジラ商店について聞いてみた。
―この店を始めたきっかけについて教えてください。
僕が創立したダンスチーム「8 North Gate」の中心メンバーの鯨と、毎日ダンスの練習後にお酒を飲んだり彼が作った料理を食べたりしながら、いつか店をやろうねとずっと言ってたんです。それで僕が33歳の時、最後にブレイクダンスの世界大会にチャレンジして、それを機に引退するって決めて、そのタイミングでこの店を始めることにしました。
―それで鯨さん主体の店を。店名からして、てっきり鯨料理専門店なのかと思っていました(笑)。
たまに言われます(笑)。僕の店っていう感じにしたくなかったのと、どんな店なんだろうって興味を持ってもらうためにも名前をそうしたんです。
―店のコンセプトは?
どんなお客さまでも、お酒を飲んでる時は笑顔が絶えないようなお店。
―では、クジラ商店自慢のお勧めメニューを教えてください。
オープン当初からすごい人気の、トマトの天ぷらとカロリーオンです。トマトの天ぷらは、今はなき昔よく行っていた居酒屋にあったメニューで、鯨に作ってもらったらすごい美味しいのができて。カロリーオンは、鯨の家に遊びに行ってた頃によく作ってもらってたやつなんですけど、いろんなものを刻んでマヨネーズとか焼肉のタレで炒めたものをご飯の上に乗っけたハイカロリーなものだから、カロリーオンと名付けました。
―メニューはいつもどうやって決めているんですか?
僕が他で食べて美味しかったものとかを、鯨に作ってみてって言うと、意外と伝わるもので色々作ってくれます。今だったら網レバーと網ハツとかも人気です。
―お客さんはどんな方が多いですか?
昔からのダンス仲間から、それこそ八王子と言えば KICK THE CAN CREW のLITTLEさんとかも仕事も一緒にさせていただいている関係で、よく来ていただいてます。あと、うちのダンススタジオがすぐそこなんで、生徒のご両親が使ってくれたり。常連のお客さんが多いんで、形としてはすごいいい感じです。
―店作りでこだわった点はありますか?
いかに大衆っぽくするかというところですかね。最初はヒップホップぽい感じを出そうかという案ももちろんありましたけど、それはダンススタジオとか自分たちの事務所でやればいいかなと思って、ここに関しては一般の方たちも楽しめる雰囲気を重視して作りました。小屋を自分たちで作ったり、畳の場所もあったり、中華の丸い動くテーブルを置いたりとか、そういう遊び心を入れて。奥にあるクジラの絵は知り合いのグラフィティアーティストに描いてもらいました。
―この店を始める前は、殿岡さんはダンサーとしての活動以外に、ダンススクールの経営をされていましたが、全く違う業種の飲食店をやってみてどうでしたか?
最初の頃は利益を出すこととかはもちろんそれなりに大変でしたけど、自分も若くて勢いがあったからノリで乗り越えられたし、仲間たちがたくさん来てくれたんで助かりました。それに、チームメイトのお父さんが五島列島で漁師兼鮮魚店をやっているから、直送でいいものを破格で仕入れられてありがたい限りでしたね。でも元々は、八王子にみんなで集まれる楽しい場所を作りたいと思っていたくらいで、ここまでしっかりやるなんて思ってなかったです。やってみてビジネスになっていった感じですね。
―なるほど。でも今では、このお店以外にも割烹「平成 楽吉屋」や、キッチンカー「 クジラサンド」を経営されて、先日は新店舗の「浜焼き肉焼き でこせまき」もオープンされましたね。
楽吉屋は今年で7年目になります。もともと僕は外食が好きで、都内にも色々食べに行ってて、八王子にちょっと高級な割烹が作れたらいいなと思っていたら、僕の幼なじみが割烹をやっていた子を紹介してくれて。彼とはすぐに意気投合して、うちで働いてくれることになったんで、銀行にお金を借りて店をやることにしました。でこせまきは、魚介や肉を自分で焼いて楽しめるスタイルの店です。それも自分でそういう店ができたらいいなとずっと思っていたら、社員として働いていた子に自分の店を持ちたいっていう話を持ちかけられて、コロナも落ち着いてきたタイミングだったので、やろうと。
―殿岡さんは、やっぱり食がお好きなんですね。
結果そうでしたね。でもお酒は2年前に辞めて今は全く飲まないです。去年の12月にダンスを復活して、大会にもまたチャレンジしてて。会社が落ち着いてきたんで、もう一度自分のダンスに集中したいと思ってます。
―では、ダンスと料理に共通点があるとしたらどんなことでしょう?
オリジナルなものが必要だけど、どちらも基礎が大事ということですかね。
―今までに店で起きた出来事で、一番印象深いことは?
店をオープンして2年目くらいに起きたぼや騒ぎです。その日の夜、僕は仲間とダンススタジオで練習していて、後から鯨も参加して、みんなで練習していたら、鯨の元に一本の電話がかかってきて。そうしたら彼がすごい焦って走って出ていっちゃって、どうしたのかと思って追いかけて外に出たら、すごい消防車だらけで、うちの店が入ってるビルから煙が出てて…。人生終わったと思いました。
―原因はなんだったんですか?
昔っておしぼりを鍋で茹でて除菌していたんですけど、鯨は店の締めを他の店員に任せていったら、その店員が火を消し忘れて帰ってしまったんですね。深い鍋だったんで火が他に移ることはなかったけど、煙が上まで行ってしまって。最悪でした。
―それは大変でしたね。でも命に関わるような事にならず本当に良かったです。その経験を教訓に、何か変えたことはありますか?
火災保険を強化しました。もちろんもともと入ってましたけど、さらに強化して。あとはそのおしぼりを煮るとか、危ない作業をなくして。どうしても疲れてると忘れたりするし、飲み屋だから店員も飲みながらやることもあるんで、本当に怖いですね。
―では逆に、ポジティブなことで、嬉しかった思い出はありますか?
お客さんや友達が楽しそうに飲んでたりするのを見たりとか、創業した3人全員がまだいてくれてることも嬉しいですけど、鯨に関して「殿岡と出会ってなかったら、ダンスも居酒屋も何もない人間になってた、殿岡が存在して本当に良かったね」って、周りの仲間達から言われる時が、僕が今存在してて良かったなと思う時ですかね。
―鯨さんは殿岡さんに出会うまではダンスをしてなかったんですか?
してないです。僕が仲間たちと八王子駅で練習をしていたところに急にふらっと来て、「仲間に入れてください」って。そこからの付き合いです。でも練習は全然してなかったですね(笑)。
―では、店付近のエリアはどんなところかを教えてください。
八王子のアンダーグラウンドな飲み屋街から少し離れた落ち着いた場所です。でも、最近はスケベなお店が増えつつあります。
―最後に、今度初めてクジラ商店を訪ねてみようと思っているお客さんにメッセージをお願いします。
今は五島列島直送のお刺身に加え、豚巻き串という、大人気の2大看板メニューがあります。それらをぜひ味わってほしいですが、1番は鯨の、人間味あふれる人間とは思えない人間性に触れてみてください。まぁまぁ面白いです(笑)。
クジラ商店
Address: 東京都八王子市横山町9-22 OK-3ビル2F
Phone: 042-649-2119
営業時間: 日~木 17:00~翌1:00 (l.o 24:00)
金・土 17:00~翌2:00 (l.o翌1:00)
Instagram: @kujirashoten