SONKA

開店: 2014年9月

業種: フランスパン専門店

地区: 東京都杉並区新高円寺

オーナーのモットー: Do my thing

Text & Photo: Atsuko Tanaka

東京の杉並で生まれ育った村山は、中学時代にテレビで観た音楽番組をきっかけにヒップホップに興味を持つ。高校1年生の時に同級生とラップグループを結成して、クラブイベントに出演するなどして活動した。あるラジオ番組のオーディションで優勝し、ニューヨークへ行ったことも。大学を卒業後は、アルバイトをしながらラッパーの活動を続け、結婚や子供ができたのをきっかけに就職した。

次第にグループのメンバーとやりたいことの方向性に違いが生じ、32歳で脱退。その後、第2の人生を模索してパン屋になることを志し、会社を辞めた。

 ―村山さんはもともとラッパーでしたが、なぜパン屋になろうと思ったんですか?

16歳から16年間ラッパーとして活動を続けていたんですけど、だんだんと行き詰まりを感じて、結婚して子供ができたタイミングで、その後の生き方を模索していたんです。それでグループを脱退することになり、音楽からなるべく離れたところで勝負したいと思ってました。そんな時、当時の通勤途中に見つけたパン屋のパンが美味しくて、ふとパン屋いいなと思って。パンの知識は全くなかったから、短期でパンを学べる学校に通って、卒業後はそのパン屋で働き始めました。

 

―その時32歳。実際やってみていかがでしたか?

そこは洋食店に併設されたパン屋で、いろんな種類のパン作りを学べるかと思っていたんですが、僕はフランスパンの担当になって。地下の隔離された2畳くらいのスペースで、ほぼ一人でひたすら毎日200本のフランスパンを作っていました。でも孤独と感じることはなく、むしろ自分に向いてると思ったし、これからの身の振り方を考えるいい時間になりました。フランスパンしか作れないことに関しても、初めは不利になるかと思っていたけど、フランスパンってパンの中でも重んじられた存在というか、フランスパンを一から一人で作れるのはすごいことなんだと知って、これはもしかしたらチャンスかもと思うようになりました。

 

―その2年後に独立されて自身の店をオープンされます。この店のコンセプトは?

フランスパン専門店。色んなパンは作らず、フランスパンだけに全力を注いでます。


―村山さんのフランスパンの特徴、こだわりなどを教えてください。

1番の特徴は、小麦粉をブレンドせず1種類のみを使っていることです。僕の知ってる限り、大体のパン屋さんはブレンドした小麦粉を使ってフランスパンを作っていると思いますが、僕は最初の段階から1種類しか使わないと決めてたんです。パン職人を目指すのが32歳と遅かったですし、他とはちょっと変わったことをしないとダメだと思って、1種類に集中することを選びました。

 

―味の特徴で言うと、どんなところでしょう?

特徴は、自分で作ったというよりは偶然に起きた出来事になると思います。それは、開店当時、他の卸業者にはほとんど相手にされなかった僕に優しくしてくれて、今使っている小麦粉を勧めてくれた近所の小麦粉卸店のおじさんとの出会いから始まりました。その頃、まだ小麦粉に対する知識があまりなかったですし、そのおじさんに言われるがまま、勧められた北海道の江別製粉の小麦粉で作ってみたら美味しくできて。その小麦粉は当時出たばかりで、他に使ってる人があまりいなかったからラッキーと思って、それで作り始めて、いつの間にかそれが味の特徴になった感じです。

店の外観とか、パン屋なのにジャズをテーマにしていたり、外身の部分はとんだ感じになってるので、一番大事な中身のパンだけはスタンダードなものを作りたいと思ってました。なのでめちゃくちゃ古い製法を使って、今の自分ができる新しいパンを作ってます。フランスパンの作り方は色々あるけど、一切目を向けてないですね。もちろんトレンドを見たり、大まかな世の中の流れとかは勉強したりしますけど、そこに流されることはないです。

―素敵ですね。では店の人気のメニューはなんですか?

まさにフランスパンですね。普通のと雑穀と2種類あります。フランスパンをベースに、ナッツや、あんこ、チョコを入れたもの、またハムやチーズ、ソーセージなどを挟んだサンドイッチもあります。

 

ーちなみに店の外の看板が「フランスパンと、ジャムとジャズ。」ですが、なぜずっと好きだったヒップホップ ではなくジャズに?

店の柱として、一つはパン、もう一つは音楽にしたいと思っていて、開店当初はヒップホップから離れたかったのもありましたし、ヒップホップの元ネタになってるジャズだったら、いろんなお客さんにも聴いてもらいやすいし、いいんじゃないかと思って。それで看板は、店名とは別にキャッチーなコピーが必要で、キャッチーさを出すためには言葉のリズム感が重要になるんで韻を踏むしかないって思って。パン→ジャム→ジャズとなって、「フランスパンと、ジャムとジャズ。」になりました。

―なるほど、そこはさすがもとラッパーの才能が活かされてますね。ちなみにヒップホップとフランスパンは相性いいですか?

そうですね、一見ハードだけど、実は親しみやすいところに共通点を感じます。

 

―店内ではヒップホップがかかってますね。

今日は特別です。普段は主にジャズをかけてます。でも、営業前はこのラジカセでヒップホップやレゲエのミックステープを聴いています。レコードも好きですけど、32歳の時に結構処分しちゃって。しばらくして店に余裕ができてきたんでまた集めようと思ったけど、レコードは大きくてかさばるんで、カセットテープを集め始めました。それを聴くために、ちゃんとしたのが欲しいと思ってこのスピーカーを買ったんです。

 

―存在感ありますよね。

自分の中で一番ヒップホップを感じるもの、大きくて低音が強いものがいいと思ってて、最初はJBLとかパイオニアとかハイテックなものを考えていました。でも、知り合いの美容師さんが店に置いている大きなTANNOY(タンノイ)のスピーカーを見て、いいなと思って。それでネットで探してたら、同じTANNOYで少し小ぶりなこれが見つかった。これでジャズを流せば、スタイルとしてハマると思い決めました。

―店の外に飾られている木彫りのパンと、管楽器も目を引きますね。

店のテーマを一つはパン、一つは音楽と決めて、店の外観からもどういう店かわかるように、シンボルとして何かが欲しいと思って、店の入り口が2つあったから、それぞれに付けることにしました。音楽は、ジャズをかけることを決めていたからジャズのシンボルとして古い管楽器がいいなと思って、このホルンにして。パンの看板はどうしたらいいかしばらく迷ってたんですけど、あるギャラリーで出会った彫刻家の近正(こんしょう)さんのことを思い出して、フランスパンのモチーフでとにかく大きいものをとお願いしてこれができました。

―では、今までに店で起きた出来事で、嬉しかったことや驚いたこと、印象的なことは?

「じゅん散歩」で高田純次さんが来てくれたことですね。店を始めて1年くらいは人が来なくて相当キツい時期が続いてたんですけど、だんだんと雑誌に出たりテレビにも出たりするようになって、何回目かであの番組に取材されて。個人的に高田さんのファンでしたし、自分の店にまさかあんな大物の芸能人の方が来るなんて本当に衝撃でした。「じゅん散歩」で高田さんは店に入る時に必ず「どうも、私〇〇と言う者ですけど」ってお決まりのギャグを言うんですけど、僕の店に来た時は、店がジャズを謳っているから、「どうも、ジュン・コルトレーンです」って。それで僕の頭は真っ白になりました(笑)。でも、色々なギャグを言って僕の緊張をほぐしてくれたり、スタッフの方とかにいっぱいパンをご馳走したりして、テレビで見る印象とはまたちょっと違って、気配りのできる素晴らしい方なんだと感じました。本当に嬉しい出来事でした。

―この店付近のエリアについて教えてください。

僕自身30年以上杉並に住んでいながら、このエリアはあまり知らなかったほどで、いろんな駅から遠いし、マイナーな場所ですね。でも駅から離れている分穏やかで、少し行くと善福寺緑地があって、カワセミがいたりする。自然豊かで、メロウでチルな町。パンを作ったり音楽を聴くにはとても良いです。静かに店をやりたい人にはぴったりな場所だと思います。

 

―今後はどんなパン屋さんを目指していますか?

パン屋としてパンを作ることと、営業時間をなるべく短くするという、自分の中で達成したいと思っていたことはほぼ実現したので、あとは続けていくことですね。2号店を出したいと思った時期もありましたけど、生涯自分が職人として現場に立っていたいので、今のペースはちょうどいいです。コロナとか原材料高騰とか色々大変なことが起きますが、どんな波が来ても、常に同じペースで同じことをやるのが大事だと思ってます。

 

 ―今度、初めて店を訪ねてみようと思っているお客さんにメッセージをお願いします。

おてやわらかにお願いします(笑)。

SONKA

Address: 東京都杉並区成田東2-33-9

営業時間: 9:30~パンが売り切れ次第閉店(主に午前中のみの営業)

Web: http://www.sonka.tokyo/